一日目 ページ1
暗く、星の輝く空の下、一人の男は棒のついた飴を咥え一息ついた。
陰鬱そうな瞳は寮の先にある森を眺めていた。
遠くには似たような寮がある。
女子寮だ。
この辺りでは寮のある高校であるというのに、男女共学である。
...だと言うのに。
元女子校だからか、男子を見ると睨むか黄色い声を出すかの二種類。
黄色い声を出したとしても、近づくだけで逃げられてしまう。
中学時代、遊びまくっていた男からしてみれば、酷くつまらなかった。
「つまらへんなぁ...」
誰に伝えるわけでもなく呟かれた言葉は夜へと溶けていった。
『そんな顔してるからつまらんのじゃないの？』
「なんやねん、失礼な...ん？」
男はハってして周りを見渡した。
寮を囲む木々を見るも、声の主は見つからない。
女性の声だったから、下にでもいるのかと思ったのに。
男は気がつかなかった。
後ろから、声が聞こえていたことに。
男は気のせいか、とため息をつき振り返ると、室内にあるソファーに一人の女が座っていた。
「うわっ」
『あれ、気づいてなかったのか』
女は立ち上がった。
「え...誰？」
疑問で頭が埋め尽くされる男。
知っている女かと脳を探るも、思い出せない。
ぼんやりと、その輪郭は覚えているような気はした。
そのため、男は知っている風を装いへらりと薄い笑みを浮かべた。
「いやぁ、急に来たら驚くやん」
記憶に輪郭だけでもあるなら、一度でも関係をもった女だろう。
そう思い男は女に流暢に話し出す。
「なんや、夜這い？」
『へ？なんのこと？』
二人とも首をかしげる。
男は、そういう行為をするのかと思っていた為。
女は、言われた意味を理解していなかった。
『う〜ん？』
唸りながらその意味を理解しようとする女に男は「いや、ええわ」と断った。
「君、名前は？」
『え？名前は...Aだけど』
「ふーん。かわええ名前やん」
『本気で言ってる？』
「すまんて」
適当に流した男にAは睨み付けた。
男が否定もせず謝るということは、そういうこと。
Aは呆れたようにため息をつく。
『で、君の名前は？』
「鬱申します〜」
Aは頷き、『変な名前、』と呟いた。
「ふわぁ」
『欠伸じゃん。やめてよ、移るから』
「移っとらんからええやろ？」
『...大口開けてんのキモい』
「君、僕のこと嫌い？」
二人は話していたが、段々鬱は眠そうに舟をこぎ始めた。
鬱は朦朧とする意識の中、Aが自分を見ていることが分かった。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
