。 ページ29
「じゃあ、先生。今日までありがとうございました」
「ちょっと待った!葉月さん、なんか忘れてない?」
昇降口までの道程で特にオチのない世間話をして、最後に、と丁寧にお礼を言う
すると渡辺先生は悪戯っ子のような笑みを浮かべて、私にそう聞いてきた
忘れてる、こと?そんなことあったっけ?
グルグルと思考を巡らせる。昨日、一昨日…そして辿り着いたのは、一週間前
そうだ、クイズ。一緒にしようと、約束したんだった
思い出して手を叩くと、渡辺先生は早速向かおうと私の手を取って、職員用の靴箱に移動する
ほとんど使わない職員用の靴箱を見渡しながら、靴を履き終えた彼に習うように私も靴を履く
狙ったのかどうかは分からないが、丁度向こうで履く前で良かった
「じゃあ早速ついてきて!」
「え、あ、でも、手なんか繋いだら…」
「もう良いの。だって俺今日で教育実習終わったし」
今はただの大学生と高校生だもん、と微笑む渡辺先生が、なんだか子供みたいで
そうですねと同意する代わりにぎゅっと握り返した手は、恋人繋ぎではなく、普通の手繋ぎだった
暖かい、大きな手。なにもかもを、川上さんに重ねてしまう
こういう時、川上さんは何て言うんだろう。ちょっと悪戯とかしたら、怒ったりするのかな
なんて、ありもしないことを妄想してしまう
「あ、そうだ。葉月さん俺の事渡辺先生って呼んでるけど、これからはこうちゃんって呼んで」
「え、でも…」
「だって教育実習終わったのに先生は変だし。ね?駄目?」
「……分かり、ました」
「おっし!じゃあ俺も葉月さんのこと、Aちゃんって呼ぼ!」
あ、もしかして嫌だった?とちゃんと確認を入れてくれる先生は、やっぱり優しい
まぁ、そんな上目遣いで言われたら断れるものも断れないんだけど
先生…じゃなくて、こうちゃんの言葉に首を横に振ると、彼はいつものように子供になった
正確には、子供の様に喜んでくれた
…川上さんとは違う、ポカポカ。まるで、お兄ちゃんと一緒に居るような、そんな感覚
パプリカを鼻で演奏する彼と、肩を並べて歩く。あぁ、幸せだ
―――神様。どうして先がない私に、こんなにも幸せをくれるんですか
あまりにも…残酷すぎやしませんか
313人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白菜(プロフ) - すずどらさん» こちらこそコメントありがとうございます。とても励みになります。誰かの心に響くような話を書くことができて良かったです。更新頑張ります (2019年12月15日 16時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - あやかさん» こちらこそコメントありがとうございます。誰かを好きになるって大変なんだな、と書いた本人ながら思ってます。これからも切ない恋の模様を見守って頂けたら幸いです (2019年12月15日 16時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
すずどら - 僕の推しは川上さんなので凄く嬉しかったです。せつない作品で、とても良いな、と心に染みています。また、続きを楽しみにしてます。頑張って下さい。 (2019年12月15日 10時) (レス) id: 66850163cc (このIDを非表示/違反報告)
あやか(プロフ) - せつない作品をありがとうございます。現在さめざめと泣いております…。続きをお待ちしております。どうぞよろしくお願いします。 (2019年12月15日 0時) (レス) id: 7a1dedd698 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - Qさん» こちらこそいつもコメントありがとうございます!!無料世界一周旅行出来るくらいの作品が書けているかはまだまだ自信ないですが、そう言って貰えると本当に嬉しいです!!Qさんもインフルエンザにはお気をつけて! (2019年12月9日 14時) (レス) id: f8ddf3423a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ