Sanatorium. 2【文豪ストレイドッグス】

58#悪魔の嘲笑 ページ13

(Side,安吾)


――『安吾さん。私、一寸相談があります』


そう云った彼女が久々に夜鳥君を伴って私の目の前にいる。
夜鳥君は彼女にぴったりとついて、離れない。またろくでもない事を云い出すのだろう。




『急にすみません。安吾さん』


「それで、何です。勿体振らないで早く云って下さい」


『マフィアから脱走して、今、治さんの所に居ます』


「あぁ、それで何です…………待って下さい。貴女、今何て云いましたか……?」




何だか耳がおかしくなったのだろうか。
不吉な言葉が聞こえた気がする。




『今、治さんの所に居ます』


「いや、それもなんですけどそれの前です」


『マフィアから脱走しました』


「貴女、何て事を! 前回ので懲りたでしょう!?」


『えぇ? 今回の為に沢山耐えたのですよ? 自白剤に微毒、その他諸々は効きました。 流石の私でも堪えましたよ……』




もう頭が痛い。何でこんなに破天荒なんだ。十六歳の少女の口から飛び出す言葉ではない。

マフィアから逃げたとなれば森鷗外が動く。否、この子が何食わぬ顔で此処に居るという事は脅威は少ないと考えていいのだろうか。




「森さんは、何と」


『何と、と云われても。追っ手の心配は無いですよ。【アクロイド殺し】を使ってしまいました』




手は既に回していたようで何より。
本当なら此処最近の騒動について問いただしたい。騒動の被害者は全員眠っているかのように死んでいる状態で見つかっているのだから。あれには頭を抱えた。




「それなら……。まあいいです。本題は?」


『探偵社に再就職しようかと』


「マフィアに特務課、今度は探偵社ですか」


『ふふっ……何かご不満が?』




まるで悪魔だ。
甘い蜜を用意しては引き寄せ、力を与える。人々は彼女を悪魔と契約するように扱う。

慥(たし)かに彼女の異能というのは万能である。だからこそ利用しようとする組織はごまん(・・・)といる。政府も、その一組織である特務課も同じだ。“悪魔の存在”に頼らざるを得ない瞬間があるのだ。

今も、“昔(・)”も。




「まるで毒ですね。悪魔ですよ、貴女は」


「へぇ、悪魔? 面白い事を云いますね。坂口さん」


「夜鳥君は彼女を生かす最善を選ぶ天才ですね」


「……何が云いたい」




彼女を護る“影”はさながら番犬だ。
彼女を生かす為なら手段を選ばない。




(夜鳥、駄目……)

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