【#コンパス】この心は【アダム＝ユーリエフ】 (ページ4)

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さあ、今日は仕事納めの続きだ。
Aは部屋着服を脱いだ。汗を吸い込んだ肌着も一緒に脱いだあと自分の体を見た。
どんなに繕ったって自分は女でしかない。自分自身からそう言われた気がした。男には成りきれない。まあ、成りきる必要も無いが。

「あ、」

胸に視線を下ろすとAは声を発した。そして、軽く上に手を置いた。ため息。

「早く胸の成長止まれ……」

隠すのが大変になる。コルセットを巻いて、男物の肌着を身につけその上に体型の出にくい男物の服を着る。国から支給された制服を着て、髪を解かして結えばA＝アモリコーゼという少年が出来上がった。

「よし、」

身支度を整え終わったので、Aは部屋を出て化学者たちの仕事場、研究室へと向かって行った。

「はよーございまーす」

研究室に入ってまずAは挨拶をした。朝も早い時間だと言うのに、研究室には数人の化学者が居た。ここにいる人達は大体は自分より遅く寝て自分より早く起きている人達だ。睡眠時間が心配になる。
そういえば、最初の頃に先輩にいつ寝てるのか聞いたことがあった。その時その人は明後日の方向を見ながら「大丈夫、俺夜行性だから！」なんて言って目の下に隈を作って徹夜してたっけ。(たしかその先輩、昼に寝ていると嘯(うそぶ)いていたが真偽は知らない)

「おはようございます、Aさん」
「室長」

皆がそれぞれ自分の研究に打ち込んでいる中、彼の声に反応して言葉を返したのはここの室長である老人だった。

「室長、何度も言いますが、貴方が一介の宮廷化学者見習いに敬語を使う必要はございませんよ」
「おっと、これは失礼しました」

と、言っているが、相変わらず直す気は無いらしい。

「この会話ももうすぐ出来なくなると思うと悲しいですね……」
「ええ………」

室長は寂しそうに目を細めて窓の外を眺めた。
気の利いたことなど言えやしない。

「いつかこんな日が来るとは思っていましたが、まさかこんなに早いとは」

Aは首を振った。

「逆でございます。こんなに遅くしてくれたのです。本当なら私は十五になる前にここからいなくなっていたはずです」
「確かにそうですが…」
「手紙を書きます。室長、そうしたら返事を頂けますか？」

そう尋ねると、室長は驚いた顔をしたあと、呆れたように笑って頷いてみせた。

自分の事情をよく知っているのに、ここまで心配してくれる。本当にこの人は優しい人だ。Aはしみじみそう思う。