七話 ページ8
〜三日月side〜
桜か････。
これ程美しく咲き誇るのを見るのは何時ぶりだろうか。
喜びを表すように、花弁を舞わせる姿を見て、自然と笑みが零れる。
不意に周りを見てみれば、荒れ果てていた地面も枯れた木々も本丸の外観も昔の様に美しくなっている。
そして、人の子の霊力によって癒えた俺の体の傷。
足元で倒れている人の子から刀を避け、そっと抱えてやる。
俺と変わらぬ等身をしておるのに、軽いの。
やせ細った腕と骨ばった体に触れ、そんなことを思う。
「三日月様！ その方は！」
「分かっておる狐よ。 部屋に運ぶだけだ、安心せえ」
足元で震える狐に一声かけ、歩き出す。
「人の子に触れるのは何時ぶりかなぁ」
「宗近･･･兄ちゃん････」
「ん？」
突然、名を呼ばれ人の子を見る。
その呼び名で俺を呼ぶのは、あの童だけ。
何故この者が･････
「おい、狐や」
「は、はい！何でしょうか！」
「この者の名は」
「えっと････、まだ審神者名を決めておりませんので、お答えできません」
「そうか。では、真名を教えてくれ」
「それは出来ません！！」
俺は足を止め、片手で彼の体を支え、もう片方の手で納めていた刀を抜き、狐に突きつける。
「俺は頼んでいる訳ではない。 この意味が分かるな？」
「･････。A様にございます。 二代目審神者様の息子様にございます」
「････そうか」
何の因果か。
「また再会出来るとは････」
あの頃よりも随分と大きくなった体。
声も、
立ち姿も、
随分と大人びていたが、やはりあの塗り固められた様な笑顔だけは何時まで経っても変わらぬな。
刀を納め、眠るAの顔にかかった髪を、そっと避けてやる。
小さな声で何度も俺の名を呼ぶ声は、少し震えている。
目頭に薄らと溜まった涙を拭ってやり、俺は審神者の部屋へとAを運んだ。
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