十四話 ページ15
〜長谷部side〜
「それでも僕は本当の名前を言うよ。 此処は訳ありの本丸なんでしょ？ どうせ帰れないし、向こうに帰る場所がある訳でもないから」
「A。俺はな「分かってる！」」
「心配してくれてるんでしょ？ ありがとう、宗近兄ちゃん」
怒った三日月の頭を撫でながら呑気に笑う人間。
帰る場所がない。
何気に言い放たれた言葉が凄く引っかかる。
どうして笑ってそんな事が言える。
「それで僕は名乗ったけど、貴方は教えてくれないの？」
「お、俺は････。へし切･･･長谷部」
「へし切長谷部。いい名前だね。宜しく、長谷部さん。 宗近兄ちゃん、ご飯出来たから器によそって！ 」
「俺がか？」
「働かずに食べれると思うなよ。」
そう言って人間は三日月と共に厨へと入っていく。
三日月を問い詰めにきたにも関わらず、あの人間が間に入ってきて全く話にならなかった。
「戻るか」((ﾎﾞｿｯ
「あ！長谷部さん！」
「？！」
((バチッ
人間に腕を掴まれそうになり、俺は咄嗟にその手を叩き落とす。
乾いた音が静寂に響いた。
しまった。
「ご、ごめんなさい････ 人間のこと嫌いでしたよね。･･･触ってごめんなさい」
「ち、ちがｯ」
何が違う。
俺は人間が嫌い。
その通りだ。 何も間違ってなどいない。
なのに、どうしてだろう。
この人間の傷ついた表情を見ると、胸が締め付けられる。
「ご飯、もしよかったらって思ったけど、僕が作ったやつだから嫌だろうし。後で、こんのすけさんに頼んで他の分配って貰うね。 それじゃ」
控えめに笑った彼は、俺に背を向け歩き出す。
行かないでくれ。
背を向けないでくれ。
そんな辛そうな笑顔で笑わないでくれ。
「A！」
「ｯ？！」
気づけば、俺は人間の腕を掴み抱き寄せた。
身長はあるが、男にしては華奢な体が妙な気持ちにさせる。
これはなんだ。
「長谷部さん？」
少し震えた声が俺の名を呼ぶ。
「長谷部でいい。それと敬語も必要ない、主」
俺が耳もとてそういうと、彼は無言で俯く。
嫌われただろうか？
「主？」
「そ、その距離の詰め方は反則だと思います」
そう言って口元を隠したAの顔は、まるでリンゴのように真っ赤になっていた
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