和服の少女 ページ22
店の買い物をしていると広場で白髪の少年と和服の少女を見掛ける。
…少女?
再度目を向けると白髪の少年が少女にクレープを差し出していた。
間違いない、これはデートの現場だ。
他者と強い繋がりを築きたくない私であっても、こういう事には興味を示さずにはいられない。
彼とは1度しか会っていないが、彼からは奥手の印象を受ける。相手は誰だろう?…と目を凝らすと、此方の視線に気付いたのか、目を瞬かせながら此方に手を振った。
「Aさん、こんにちは!」
「こんにちは、中島さん。もしかしてデート中?」
「ちちち違いますよ!!」
「其方の愛らしいお嬢さん、初めまして。」
上擦った声で勢いよく首を振る少年。
では何だろうか。
というか、そこまで否定したら少女が可哀想だろう。
自己紹介にも反応しない少女の方に目を向けて、ふと息が詰まる。
濃い血の匂いと、そして夜よりも深い黒い闇。闇を好ましく思えない私は普段であれば自然と距離を置こうとしたが、少女の瞳の奥に宿り始めた僅かな光に思い留まった。そもそも悪巫山戯は抜きになぜ中島さんと赤色の和服の少女は一緒にいるんだろうか。
「貴方のお名前は?」
「…鏡花。泉、鏡花。」
「そのクレープ美味しそうですね。どこのお店?」
「公園の端っこで、おじさんがやってるクレープ屋さんです!」
「…ピンク色のエプロンをしてるおじさん。」
満面の笑顔で頷く中島さん。
それとは対照的に赤い和服の少女は警戒するように此方を覗き込んでいる。残念ながらクレープ屋さんは店じまいしていて、店主らしき男性は鳩をクレープの切れ端で餌付けしている。男性が手を宙で開くだけで鳩が寄っていくのを見ると、この公園の鳩は彼の支配下に置かれているのかもしれない。
「ところでAさんは何を?袋を持ってるから買い物とか?」
「えぇ、お店の買い出しに。その途中で中島さんの姿が見えたものだから。」
腕時計に目を向けると随分と時間が進んでしまっていた。
「いけない、そろそろ帰らないと。中島さん、泉さん、楽しんでね。」
「…十分楽しんだ。
もう一つ行きたい処がある。」
十分?まるで今生最期の遺言のような台詞に手を止める。“行きたい場所”と言って少女が指差したのは交番だった。中島さんは蒼白く、血の気が引いた顔をしていた。まるで気付かれたくない謀を、対象者に気付かれてしまったかのように。
彼女はタヒを覚悟し、冥土の土産に光のもとで束の間の自由を謳歌していたと気付く。
35人がお気に入り
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:風花 | 作成日時:2020年7月12日 15時