『第五人格』祝福に終焉を (ページ3)

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パーティーの前にページ3

(何かおかしい)

ふとイライ・クラークは目の前の様子に不思議そうに首を傾げる。
今は新しいサバイバーとなる人物のために歓迎会を準備しているのだが、エマさんとエミリー先生がそわそわと落ち着きがない。
時々手を止めて遠い目で窓の外を見つめたかと思うと、軽く身を震わせて焦った様子で作業に戻る。
その動作は軽く５回以上は超えている。
イライは放っておけないと心配そうに声を掛けた。

「心ここ有らずといった様子だけど大丈夫かい?
　…もしや新しく来た子の事かな。」

瞬間、２日ともビクリと肩を跳ね上がらせたため図星だとイライは悟った。
エマさんは人懐っこく、良く言えば天真爛漫な人物であるし、
エミリー先生は人を放っておけない性格をしている。
そんな２人が他者から距離を取るような事は無いはずなのだが…
もしや今回の人物は其程に厄介な人物なのだろうか。
２人は互いの顔を覗い見て数秒ほど沈黙した。
先に口を開いたのはエミリー先生だった。

「悪い方ではないと思うの。むしろ上品で心優しい方。気遣ってくれたし。
…そういえば、あの子。イライさんに似ている気がするのよねぇ」

「似ているって、私に?何処がだい?」

“そうねえ、雰囲気かも”と答えると、
エミリー先生は人に呼ばれて厨房へと姿を消してしまった。

「あの子の後ろに居たなの」

エミリー先生が消えて言った方向を見つめたまま、エマさんは呟いた。
いったい何がいたのか、そう問い掛ける前に此方を振り向いた彼女が再度小さく呟く。

「…大きな狼」

　案内された部屋の中で息を吐く。
ベッドの下で寝そべっている相棒…先程の悲鳴の原因となった存在に眼を向けるとAは軽く睨み付けた。
そのままの姿で現れてきてくれた御陰で２人は怯えて後退するように距離をとられてしまった。

《姿を見せろと申したのは貴方だろう。今更過ぎた事を言っても時間の無駄というもの》

なんて呑気に欠伸しながら呆れた声を発する相手は大人の男より一周りほど大きな狼だった。
何処か瓶覗色を帯びた銀の獣毛に、鋭く輝く花浅葱色の瞳。
その姿は神秘的ではあるものの威圧的で、初めて見た２人が怯えてしまったのは無理もない。
狼のもっともな意見にグウッと言葉を呑み込み暫く押し黙る。

『…けど都合良かったかも』

不気味に霞がかった景色を窓越しに眺めながら彼女は呟いて、
今夜の歓迎会の準備へと浴室へと足を向ける。

《最初から他者と馴れ合う気は無いのだから、良いではないか。》