13.“兄さん” ページ14
ポスッ、と自分の部屋のベッドに座るとスマートフォンの電源を付け誰かに電話を掛けた。静寂した室内に響くスマートフォンの着信音。じっと画面を見つめる瞳は何処か悲しげだった。そこには電話の相手が書かれていて…名前では無く、“兄さん”と書かれていた。
着信音が聞こえなくなり代わりに聞こえてきたのは優しげな声…。水無月の兄だ。耳元にスマートフォンを近づける。変わらない兄の声に笑みをこぼし安堵した水無月。
『時雨、お前日本代表に選ばれたんだろう？凄いなぁ！やっぱ自慢の妹だもの！俺は怪我してるけど…頑張ってくれよ、時雨！』
「…うん、ありがとう。兄さん。私、貴方の代わりに頑張るよ！…絶対優勝してみせる、世界一になる。」
兄の励ましの言葉に胸が熱くなる。それと同時に広がってくる罪悪感…兄までも裏切ってしまう…。
それでも全ては貴方達を救う為__
__裏切ってはいない、そして裏切ってはいけない。貴方達も、オリオンも__
決して変わる事は無いんだから、私の想いは__！
『あぁ、俺は応援してるから！時雨、お前達の良い報告待ってるからな！お前も練習とかで忙しいだろ？そろそろ切るね。またね、時雨。』
彼はそれだけ言うと電話を切った。ふぅ、と溜息をつき電話が途切れたスマートフォンを弄ると写真を開いた。
スマートフォンのファイルに残っている一枚の写真。そこには“仲良しそうに”写っている家族の写真が。幼い少女と少しだけ大人びいた少年。彼らの後ろにはよく似た男女が写っていた。その写真をじっと見つめる。
そして小さな声で…写真に向かって
「兄さん…。そして母さん、父さん。貴方達は私が救うから…
そしたら…」
呟いた。ぷつん、と糸が切れた様に止まった声。ぎゅっ、とジャージの胸を力強く握る。
「(また愛してくれますか？)」
ベッドから立ち上がりドアに向かう。ドアノブに手をかけドアを開けると廊下に出た。その先には怒りが篭った鋭く恐ろしい目つきでキッ、と睨みつける青髪の少年…星田がいた。
「おい、時雨、お前どういうことだよ。電話聞こえてたけど。“絶対優勝してみせる”…？オリオンを裏切る気か…？」
「うるさいな、勘違いしないでよ。じゃあわざわざ兄さん…葉月にオリオンのこと言う必要あんの？それこそ裏切っているじゃ無い。私たち、使徒はスパイ選手よ。あんた、馬鹿じゃないの？」
彼の何も考えずに言った発言に呆れながらも彼を馬鹿にした水無月。
「(演技だっつーの。ばーか。)」
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