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不思議に思いながらもアタシはさっきまで丸かったはずのドーナツが無に消え、カレーパンに持ち替えてから話を切り替えた。
「結局、なんデ急に早起きなんテ始めたんダ？ 遂ニ心入れ替えたのカ」
「あー……いや、今日が特別。 明日からはいつも通りに起きる予定」
「ハ？」
「うん……なんか、ごめん？」
日の昇り切った頃になってから扉をぶっ叩きに行くのも昨日で最後だったのかと感心したような、少し名残惜しいような気分に浸った矢先、彼の返答へアタシは反射的に一音を放つ。
アタシには「特別」の意味もよく分からずに、きっと今日がパン屋の特売だったのだろうと浅はかな推測を立てて勝手に納得した。
その後は凄く話が盛り上がる事も、だからと言って気まずくなるような事も無く、平穏な朝食の時間が流れていった。
辛口のカレーパンはアタシの好みに合っていて、スパイスを甘さで誤魔化さない潔さに一票投げたくなったし、ピザトーストはピザソースの酸味と溶け掛けたチーズがマッチしていて文句のない美味しさだった。
「美味かっタ。 ありがト」
アタシはいつも以上に豪華な朝ご飯に満足して、上々な気分で礼を言った。
普段ならご馳走様と言ったきり感謝を伝えることはなかった気がしたが、今日ばかりはしっかりと伝えておきたい気持ちになったのだから仕方が無い。
「ううん、それなら良かった」
安堵の籠った笑み。その真意を読み取れる程、大人では無かった。
アタシにはそこに込められた意味を汲み取る機転も器用さも無い。
「そうだ、」
「なァ、」
声が被る。
アタシは発そうと思っていた言葉を呑み込んで相手の言葉を待つ事にした。
そこには僅かなプライドと恥ずかしさがあったのかもしれない。そして、このまま待っておけば勝手にその話題に移るだろうと根拠のない確信を持って黙っていた。
「……今度、一緒に行ってみない？ 他にも美味しそうなのいっぱいあったから」
「賛成。 アタシもどこノ店だか聞き出そうト思ってたシ」
＿＿一度途切れた言葉の続きが、きっと来るだろうと。
互いに不器用な攻防戦をしている事は何となく察している。
アタシにはその正解が未だ分からず、これからも曖昧な道を歩いて行くのだろう。
不思議とアタシはその時間が、煩悩が、マイナスだとは思っていない。
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