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「いヤ、まだダ。 今こっち戻っテ来たばかりだシ」
「そっか。 なら良かった」
「……？」
アタシは彼の言葉が咀嚼しきれずに、疑問符を浮かべた。
「さっきパン屋に立ち寄ってね。 美味しそうな物があったから買って来たんだ。 良かったら、一緒に食べようかと思って」
彼が袋から取り出したパンの数々は確かに美味しそうで、ふわりと甘い香りを届けていた。
いや、まさか。まさかアイツが、朝からパン屋に出かけるなんて有り得ない。
有り得ない、筈だ。
アタシは自分の想定を根底から覆され、暫く黙り込んだ。何故、如何して、と考えていたが、目の前の小麦色の誘惑に負け、有難く頷くことしかできなかった。
ピザトースト、カレーパン、くるみパン、そしてホワイトチョコレートのかかったドーナツが2つ。
いつの間に持って来ていたのか、平皿にはカレーパンとドーナツが分けてあり、此方に差し出される。この中ではカレーパンが食べたいと思っていた矢先の事で、アタシは僅かに動揺する。
「ピザトースト、美味しそうだったから買ったんだけど、流石に3つは食べられないかなって思ってさ。 半分いる？」
「貰っテ良いなラ食べル」
いつも以上に丁寧な動作でピザトーストが切り分けられる。
皿に盛られた2.5個のパンは只の朝ご飯として済ませるには豪華過ぎるような気もした。
コイツって普段からこんなに朝食を食べていたっけ、なんて思考を巡らせたが、朝食の時間が相当ズレている影響もあって答えは出せなかった。
どれから食べようかと迷い、皿に視線を落としていると向かい側に座る彼がドーナツを手にしたのが微かに見えた。アタシもそれに同調するようにして、ドーナツを口に運ぶ。
「……美味イ」
一口齧ったドーナツはチョコレートでコーティングされていながらも、くどい甘さは無く、比較的すっきりと食べられる物だった。
自分から好んで買う事は無さそうなそれすらも「また食べたい」と思わす程の絶妙な味のバランスに、彼のセンスと店の技術に脱帽せざるを得ない。
「あ、ほんとだ。 美味しい。 やっぱりあのお店に行って正解だったなぁ」
「この辺りパン屋なんテあったカ。 アタシ行った事無いナ」
「大きな通り沿いでは無いんだよね。 ……今度、」
彼は何かを言い掛けるようにして、迷ったように口を噤む。
アタシはその先に続く言葉を暫く待ったが、一向にその言葉は来そうになかった。
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