White day. ページ8
＊
3月中旬。
気が付けばあっと言う間に時は流れて行き、身に流れを任せたら最後。
何処までも流されて行ってしまう様な感覚を覚え始めたのは何時の話だっただろうか。
いつも通りの時間に起きたアタシは他のイカ達が動き始める前に愛武器のテスラを磨き、気が済むまでバルーンを割り続け、適度に運動をする事が日課となりつつある。
まず、それより他にここでは鍛錬なる物は出来ないと言うのが正しいのかもしれないが。
1日怠れば3日退化すると言われ続けて育ったアタシにとっては、この時間は切っても切り捨てない物であるのは確かだった。
「……、今日ハこの辺りで引き上げるカ」
特に誰かが聞いている訳でもない呟きは虚空へと吸い込まれて行く。
時計を見れば7時半。自由な面々の中で早起きに含まれるイカ達は起きてくる頃合いだろう。
アタシは早起きのイカに便乗して朝ご飯を作って貰う事が日常と化していた。
時に握り飯、時にトースト、時にシリアルフレーク……その時々に近くに居たイカに「ついでにアタシのも」と強請るのはもう慣れた物である。
アタシは少し弾んだ足取りでハウスの方へと向かう。
今日は誰が何を作ってくれるだろう。図々しい疑問を巡らせながら、トレーニングステーションを後にした。
▽
「ただいマ」
パーティーホールの扉を開けて一言。これも、毎日の日課となりつつある。
周りを見渡せばいつも早起きの面々が既に集まっており、普段とさほど変わらない……と思っていた時だった。
「？ 何故オ前ガ起きていル？」
そこに居るのが有り得ない筈の顔が見えて困惑する。いや、普通ならこんな表現は可笑しいのかもしれないが、少なくともアタシはアイツがこの時間に起きてくる事を『有り得ない事』として認識していたのだ。
「おはよう」
「……変な物でも食ったのカ」
「あはは、嫌だなぁ。 ボクだって早起きする日くらいあるよ」
アタシは挨拶を返す事すら忘れて問い掛ける。
ドアを壊す勢いで叩き起こしに行っても起きない様な奴が早起きだなんて、余程の事が無いとしないだろう。
アタシは疑いを込めた眼差しで彼を見たが、特に何も分からなかった。
「朝ご飯はもう食べた？」
目の前の彼はごく普段通りの笑みで此方に問う。
但し、その言動に僅かな違和感を覚えたのは単なる直感だったのか、或いは別の何かだったのか分からない。
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