君に贈る杏の花。Ⅰ【五条悟】 (ページ1)

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弥生。ページ1

「どうして。」

セーラー服に卒業おめでとうのバッチを付けた少女は茫然と、自分の屋敷が燃え盛る様子を眺める。
ほんの2時間前卒業式が終わり、担任からの挨拶や友達との別れを惜しむ会に参加している間。
「またあとでね」と見送った両親は、Aの祖父母もろともこの炎の中。

担任の最後の挨拶と共に学校を出ようとしたAは、青ざめた顔をした教頭に呼び止められ、家に帰ればこのありさま。
信じることができず立ち尽くし、炎のめらめらと焼き尽くす音だけを聞いて崩れ落ちた。

八九寺家の悲報を耳にした呪術高専は、事件当日からAを保護。
もとより呪術高専への入学が決まっていたAは、当時寮にいた家入硝子を紹介され、家具や生活必需品をそろえ、入寮した。

いつ死ぬか分からない。

家の者全員が呪術師である中そう言い聞かされ育ってきたAはもちろん、この事件が人生最大の悲しみであるが、自然と受け入れがたくも受け入れることができた。
八九寺の名前を背負って自分が前に進むべきだと、15歳なりに自分を保った。

「春休みだからさ、帰省とか任務で全然誰もいないけど。まあよろしく。」

「いろいろお世話になります家入先輩。」

「硝子でいいよ。」

「じゃあ硝子先輩！」

了承した硝子の顔を見てAは笑う。
これからどんな高校生活を送るのだろう。
0から始まるに等しい新しい生活に、親族の死と対比するようにほんの少し胸を躍らせた。