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ライブ当日。
前日まで仕事だったからか、いや言い訳はよくない。
正直にいおう。遅刻した。
「やってしまった…」
急いでタクシーに乗り込んで会場へ向かう。
会場近くまで来るとすでにリスナーが物販のために並んでいた。
こんな長い列作って、長い時間待ってくれているんだと感謝する。
「裏口にお願いします」
運転手さんにそうお願いして裏口に止めてもらう。
降ろしてもらった後走って裏口に向かう。
途中で女の子とぶつかってしまった。
軽くよろけたその子に
「すんません!」
とだけ声をかけて申し訳ないけれどそのまま会場に入った。
『千、羅?』
その女の子がAということには気づかずに。
「すみません、遅くなりました!」
「おっせーぞ!」
「遅刻はだっさいでセンラ」
「センラさん、はよ準備してきーや」
それぞれに声をかけられ、控室へと向かう。
パーカーの下に動ける服を着ているので荷物を置いてパーカーを脱いでステージに戻る。
「これからはヘマ、しませんよってね」
最終リハを終え、本番を迎える。
3万人ほど入る会場がいっぱいになっている。
本当に幸せなことだ。
「ここで歌えて、本当によかった。
これからも、僕たちをよろしくお願いします」
盛り上がりも最高潮になって来た頃、MCの時間にそう話す。
アンコールも終わり、舞台裏にはける。
シャワーを浴びたあと30分ほど経ったが楽屋招待までは時間がある。
外の空気が吸いたくて、うらさんに許可をもらって外に出た。
終演から30分経った会場付近は人もほとんどおらず、ライブとは関係ない一般の方が散歩をしていた。
時刻は18時半。
少し暗くなってきているウォーキングコースを歩く。
5分ほど歩いたところで自分の数メートル先に人がいることに気づく。
リスナーだと面倒だ、と思って踵を返そうとしたその時、
『千羅』
懐かしい、声が聞こえた。
振り返ると、そこには
夕闇に光。
俺とおそろいだと笑っていたゴールドの瞳がこちらを見ている。
夕闇に映えて、とてもきれいだ。
「A…?
なんでここに…」
『急にいなくなってごめんね。
引っ越しが決まってたのに、言えなかったの』
あの時いなくなったのは引っ越しのせいだというA。
『まさか、応援してたグループに千羅がいるなんて思わなかった。
センラさんって千羅だったんだね。
似ているとは思っていたけど…』
あんなに会いたいと願った彼女は、リスナーだった。
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作者名:蘭人 x他1人 | 作成日時:2020年4月1日 22時