夕闇に光（センラ） ページ38
『センラの瞳は私とおそろいだね。
その眼、大事にしてね』
そう笑った彼女は数年前何も言わずにいなくなってしまった。
彼女の瞳はゴールド
宝石のような色をしていた。
俺の瞳はイエロー。
瞳の色でいじめられることも多かった俺は自分の瞳の色が嫌いだった。
そんな俺に彼女は言った。
それから、俺は彼女の言葉を胸に瞳を大事にしている。
彼女…俺の初恋の相手、Aに言われたから。
「…ラ、セン、ラ、センラ！」
「んん…うるさいですよ、坂田ママン…」
「誰がママンやねん！」
ぺしっと頭をたたかれて覚醒する。
「いたぁ…そんな叩かんでもええやん」
「お前が変なこと言うからや」
起こしてくれたのは坂田。
現在ライブのリハーサル中。
休憩中に眠くなってしまった俺はつい寝てしまったようだ。
夢を見た気がする。温かい夢だった。
「なぁ、坂田初恋の子って居る？」
「なんやねん急に気持ち悪い。
居るよ」
「その子とは、どうなった？」
「振られた」
「だっさ」
むき―!と怒った坂田がとびかかってくる。
坂田にそんなことを言ったが、俺の方がダサい。
思いを伝える前に、いなくなってしまったのだから。
思いを伝えた坂田の方がよっぽどかっこいい。
「はよリハ戻んで。うらさんが怒ってもええの？」
それは勘弁と両手を上げて降参のポーズをしてリハに戻る。
次のライブはファイナル。
絶対に失敗するわけにはいかない。
「気合い入れていきますかねぇ」
着ていた練習着の袖を捲ってダンスレッスンに戻る。
「は〜!疲れた！」
２時間ほどでリハの時間が終わる。
仕事帰りに来たからか疲労感がひどい。
帰ったらさっさと飯食ってシャワー浴びて寝てしまおう。
そう考えて身支度をする。
「おいセンラ」
後ろからうらたさんに声をかけられる。
隣には志麻くん。
「お前、今日大丈夫か？」
「心ここにあらずって感じやったで。特に休憩後から」
心配してくれているようだ。
「ちょっと昔のことを思い出してしまって。
次からちゃんとやるんで、今回はすんません」
へらへらと笑ってその場をやり過ごす。
２人は心配したような顔をしたまま、じゃあ、また次のリハで、と言って帰って行った。
そうだ、いつまでも昔のことを引きずっていても仕方がない。
思いを伝えたくても、Aはもうそばにいないのだ。
「好き、やったのになぁ」
１人そう呟いて帰宅する。
抱えきれない思いを、胸に抱いて。
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作者名：蘭人 x他1人 | 作成日時：2020年4月1日 22時
