59 姉妹の差 ページ9
「はーい、ストップ！」
ぱんぱん、と乾いた音が二回。姉が手を叩いた音だ。
なんでちゃっかり仕切ってるんだ。
「うんうん、話を聞いている限りではみんな肯定的みたいでしたので、取材は進めさせてもらいます！ ということでここで、私から三つのことを提示しますね！」
真っ直ぐに伸ばされる長い指に、全員が釘付けになる。
「その一、みなさんの練習の邪魔になるようなことは絶対にしません。
その二、面白おかしく誇張したり、あることないこと書くようなことも絶対にしません。
その三、実名を出されたくない場合は言ってください。こちらで取り計らいます！
まああとは、普通にコミュニケーションを楽しんだりとかしたいと思ってますので、気軽に話しかけてくれたら嬉しいです！」
最後のは置いとたとして、それ以外の言葉には感心した。
この三ヶ条が社訓なのか自分で戒めてる鉄則なのかは知らないが……こういうところは妙に真面目なのだ。
「そして最後に！ もう皆さん薄々お気づきかと思いますが、私A純は、AAの実の姉でございます！ いつもマネージャーの妹がお世話になっております！」
──石化した。
黙っていれば、たまたま同じ苗字なんですねあははって具合で誤魔化せたかもしれないのに。あっさりカミングアウトしやがった。
いや、隠し通すのはどのみち無理か。この姉が私のことを話題に出さないわけはない。もしそんなことがあればそれは姉じゃない。
「……と、いうわけで！ 姉妹共々末永くよろしくお願い致しまーすっ！」
＊
地獄だ。
週に一回、見学に来るだと。あの姉が。あの、姉が。
マネージャー業務をこなしながら、ちらと姉の様子を盗み見る。今はどんな様子で練習を進めているのかなど、メモしているようだった。
黙っていればそれなりに美人なのだ。スタイルもいいし。しかし口を開けば豹変する。誰にも喋る隙を与えない。
なんで雑誌記者になったんだろう。詐欺師あたりが天職だと思うのに。
──と、姉の傍を歩いていた神童が捕まった。
マシンガントークの餌食になり、たじろいでいる。嗚呼なにか妙なことを吹き込まれていないだろうか。
いや、普通に仕事をこなしてるだけか。チームのことについてはキャプテンに話を聞くのが一番手っ取り早いから。
ほどなくして神童が解放され、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし次の獲物は──私だった。いつもの笑みを顔に貼り付け、大股でこちらに近づいてくる。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
