58 嵐の来訪者 ページ8
朝のミーティング。
監督から昨日の試合の講評や、マネージャーからの連絡事項がいつものように伝えられていく。
フィフスに反乱するとチーム一丸となって決意を固めたからか、雰囲気も引き締まってきたように思えた。
「──俺からは以上だ。それと練習の前に、今日はみんなに紹介したい人がいる」
ふと円堂監督がそう言ったので、腰を浮かしかけていたメンバーはお互いに顔を見合わせる。
私も山菜さんに目で問いかけてみたが、首を横に振られた。一体誰だろうか。
その人物は──なんと前面にあるスクリーンの影からひょっこりと姿を現した。
豊かな長い髪をポニーテールにした女性。白いオープンカラーシャツに黒いパンツ、170センチはあろうかというモデル体型。
「……げっ！」
カエルが踏み潰されたような声を上げたのは私。視線が集中するが気にしない。気にしてられない。
冷や汗が吹き出る。手がわなわなと震える。
その人は、これでもかというほど快活な笑顔を浮かべ──がばりと頭を下げる。
「皆さん初めまして！ サッカー雑誌『月刊イレブンワールド』から来ました、記者のA純と申します！」
A純、二十四歳。
職業、雑誌記者。
私の──実姉。
「この中で、イレブンワールド買ったことあるよーって人は？ いないかな？ まあまだまだ駆け出しの会社なので！ もしコンビニとかで見かけた際はぜひぜひ購読を！ 660円なので、学生の方たちでもお求めやすいかと！」
始まったマシンガントークに、誰しも……円堂監督さえも呆気に取られている。
嘘だ、嘘だ。だって姉は今都会で仕事してるはずで、稲妻町にいるはずはなくて。
「えー、この度私共では雷門中サッカー部への長期取材を行うこととなりまして！ 週に一回くらいかな？ 練習風景を見学させてもらったり、インタビューさせてもらったりしたいと思っております！ 皆さんがよければですが！」
姉は一旦そこで言葉を切る。私たちの反応を伺うようにぐるりと室内を見回している。
取材の是非を問うているのだ。
数秒の静寂の後、部内は一気にどよめきに包まれた。
「取材って、マジかよ？」
「今、Aって言わなかったかド？」
「俺たち、雑誌に載るの？！」
「A先輩のご親戚ですか？」
「取材か〜、別にいいんじゃね？ 悪い気分はしないし」
「な、何かの罠かもしれませんよ？」
「えらくキャラ濃い人が来たな」
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
