57 快挙の一勝 ページ7
「『なみのりピエロ』！」
浜野が必殺技で相手を抜き去る。
そこからは一進一退、どちらも譲らない互角の戦いが繰り広げられた。
「『ビバ！ 万里の長城』！」
化身使いにボールが渡りかけたところを、天城さんがセーブ。
そのボールの転がる先は──依然として動かない、倉間の足元。
チャンスだとばかりに万能坂が奪いに行く。
「倉間！」
「倉間っ！」
誰の呼び掛けにも答えない。
敵はそこまで迫っている。あと五歩。三歩、二歩──一歩。
動いた。倉間がボールを蹴りあげ、剣城に正確なパスを回す。
これで雷門の十一人が揃った。剣城はそのまま敵陣へ攻め込んでいく。
「『機械兵ガレウス』！」
「『剣聖ランスロット』！」
化身対化身、待った無しの戦い。
「『ロストエンジェル』！」
「『ガーディアンシールド』！」
矛と盾がぶつかり合う。
勝ったのは──
「行け！ ランスロット！」
剣城だった。シュートはキーパーを巻き込んでネットに刺さる。
2-2、同点まで漕ぎ着けた。
その後も追い風は雷門に吹き続ける。
「『フォルテシモ』！」
力を使い果たしたらしい相手キーパーは化身を出し切れず、神童のシュートが炸裂。
そこで試合終了のホイッスルが鳴った。3-2。土壇場での大逆転勝利だ。
「やったあっ！ 勝った、勝ちましたよ！」
飛びついてきた空野さんを受け止める。
勝ったのだ。十一人でもぎ取った、初めての勝利。
私の、いや私たちの中に確固たる絆と自信が生まれつつあった。
──いける。優勝を、狙える。
本当のサッカーを取り戻すのだ。誰しもが、しがらみなく自由にサッカーを楽しめるように。
＊
快勝の翌日。
朝の通学路に見慣れた後ろ姿を見つけて声をかける。
「おはよう、神童」
「A。おはよう」
ウェーブのかかった髪が揺れた。
早朝なのに欠伸を噛み殺す様子もなくて、朝に強いんだな、とか取り留めのないことを考える。
「霧野の怪我の具合、どうだって？」
「軽い捻挫だそうだ。骨にも影響はないから、しばらくしたら復帰できるって言ってた」
「そっか。よかった」
まず一安心だ。昨日試合が終わったあともちゃっかり立ち上がってたから、ハラハラしたけど。
「あのさ、A。話はちょっと変わるんだが」
「なに？」
「……いや、やっぱりなんでもない」
「ん？ そう」
珍しく歯切れの悪い神童に首を傾げる。
それでも深く追求することはせず、そのまま二人で校門をくぐった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
