97 強い相手 ページ47
太陽はまだ高い位置にあった。
初夏の湿った空気に汗ばみながら、練習を終えたみんながベンチに戻ってくる。
「お疲れ神童」
「ああ、ありがとう」
いつものようにドリンクを手渡していると、視線を感じた。
顔を向けるとそこにいたのは霧野。
「なんか二人、最近よく話すようになったな」
神童と二人で顔を見合わせる。
言われてみればそうだ。選手たちの中で一番言葉を交わすことが多いと言っても過言じゃない。
「まあ、そうだね」
「去年までは一緒にいることすら珍しかったよな」
頷き合い、先日のことを思い出しながらこっそり目配せする。
居心地がいいというか話しやすいというか、波長が合うというか。いい友人になれたことが純粋に嬉しい。
霧野はそんな私たちについて深く追求はしなかった。
「ま、仲良きことは美しきかなって言うし──」
「全員シード？！」
突如飛び込んできた円堂監督の言葉に、私たちは息を呑む。
監督は誰かと電話をしているらしい。一言二言話してから通話を終えた。
「全員シードって……まさか海王学園のことじゃあ？」
「ああ。フィフスセクターのデータベースを調べてわかったらしい」
霧野の問いに、監督は神妙に頷いた。
全員シード。メンバーの総入れ替えでもさせられたのか。フィフスもなりふり構っていられなくなってきたようだ。
「ってことは、全員が化身使い……」
「それは違う」
車田さんの呟きを否定したのは剣城。
シードだからといって必ずしも化身を使えるわけではないらしい。
しかし全員がフィフスの特別な訓練を受けており、恐るべき身体能力を有している、と。油断は禁物ということだ。
「面白いんじゃね？ どうせやるなら、そっちの方が盛り上がるじゃん」
しかし浜野が、場の重い空気にはそぐわないのほほんとした口調でそう言ってのけた。
「シードを揃えてくるってことは、それだけフィフスセクターもマジってことだし……そいつら倒したら一気に革命成功しちゃったりして？」
あはははは、と笑う浜野に全員の視線が注がれている。
その言葉はチーム全体に火をつけたようだった。伝播していくように、メンバーたちの顔にやる気がみなぎっていく。
「さすが浜野先輩！」
「えっ……ま、まあな！」
──ああ、多分なんとなく言っただけだ。
勢いづいたみんなはフィールドへ走り出していく。
そんな中で速水だけが、一人うつむいたままだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
