【イナGO】君へ贈る旋律第二楽章【神童拓人】 (ページ16)

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66　虚勢の行き場ページ16

「A、お願い。言ってくれないとわからない」

母さんに懇願されても、私は最後まで口を割らなかった。

どうせ今本当のことを言っても誰も信じない。そう意固地になっていた。

話し合いは平行線、結局先に手を出したこちらが悪いということで落ち着いた。そうしないと今岡の母親が激昂し、手が付けられない状況になりそうだったから。

頭を下げる母さんを前にしても、私は眉ひとつ動かさず俯いて、自分の膝の一点を見つめていた。

その後私は、稲妻KFCのユニフォームを着ることは二度となかった。

＊

殴ったことを正当化するつもりはない。

あの時頭を下げていれば、とりあえずは丸く収まったのだろう。そう頭ではわかっていても、身体は一切動かなかった。

今岡が私に付きまとうのは、プライドを傷つけられたからだ。女に馬乗りになられて殴られる姿を一瞬でも他人に見られた。それだけで恨むには十分な理由になる。

玄関ドアを開けると、視界に飛び込んできたのは姉の姿。

「おっかえりーA！遅かったじゃーんちゃんと友達と帰ってきた？ Aかわいいんだから変なやつに絡まれて誘拐とかされちゃったらどうするのさぁ……って、A？どったのそんな悲しそうな顔して」

いつもの姉。ハイテンションでうるさくて、すぐ抱きついてこようとする。

世界で、たった一人の。

「──お姉ちゃ」

「あ、もしかしてお腹空いたの？ご飯今できたところだって〜今日麻婆豆腐みたいだよ！ Aってご飯にかけるタイプだったよね？おかーさーんAの分はオン・ザ・ライスだよーー！」

どたどたと足音を響かせながらキッチンに走っていく。

通常営業の姉にため息をついて、私は自室に向かった。

着替えもそこそこにカバンを放る。

押し入れからダンボールを勢いよく引っ張り出し、中からサッカーボールを取り出した。

三日後。そこで勝負が決する。

──やるしかない。これで終わりにするんだ。

＊

翌日。

円堂監督の告げられた事実に、私たちは唖然としていた。

──地区予選準決勝の相手が、帝国学園に決まったのだ。

本来青葉学園と対戦するはずだった予定が、突如ブロック替えを通達されたという。

フィフスの権限をもってすれば、なんでもありということか。

万能坂では一緒に戦った剣城も、今は全く練習に来ない始末。

強敵・帝国に、私たちは十人で挑まざるを得なかった。