65 起きた事件 ページ15
「お前、いつになったらやめるんだよ」
私が入団してから半年と少しが経ったあたり。痺れを切らしたのか、今岡がそう突っかかってきた。
河川敷、公衆トイレ裏。フィールドから死角になる場所だった。
「スタメンもほとんど外されて、プレーも雑になって。お前がチームの足引っ張ってんのわかんねえ？」
今岡の言うことは事実だが、聞く耳は持たなかった。
「お前なんているだけお荷物だ。とっとと失せろ」
言いたいことはそれだけか。私は目で問いかけ、何も言わず背を向ける。
「あと、お前のあのうるっせえ姉貴？ あいつも邪魔」
──そう、慌ててつけ加えたような言葉に足が止まった。
何故今、姉の話が出るのだ。何故姉を攻撃するのだ。
「あいつが見に来た試合は、俺ら絶対負けてるの気づいてたか？ いい迷惑なんだよ。気が散って仕方ねえ」
拡声器でも使っているかのような大声で応援していた姉。
私だけじゃなく、他のチームメイトにも励ましの声をかけていた姉。
──次は勝てる、Aなら大丈夫。そう言って笑っていた姉。
いつも私のことを信じて、見守ってくれていた姉。
「疫病神なんだよ、疫病神。姉妹共々さっさと消え──」
言い終わらないうち。
私の右拳が今岡の横っ面に炸裂する。
──ゴッ、と鈍い音がした。今岡は派手にすっ転んだ。
今岡の身体に馬乗りになる。続けざまにもう一発、顔面に拳を入れた。
今まで溜まった鬱憤が爆発した瞬間だった。積み重ねは小さなものだったが、トリガーは単純で──姉を侮辱されたこと。
しかし相手ももちろんされるがままではない。掴み合いになり、完全に泥試合にもつれ込む。
髪の毛を振り乱し、服を力いっぱい引っ張り。右も左も前も後ろもわからないまま、攻撃を加え続ける。
騒ぎに気づいた監督とコーチに引き剥がされるまで、私たちは取っ組み合いを続けた。
＊
小さな自治会館の一室。
監督、コーチ、今岡、今岡の母親、そして私と、連絡を受けてやってきた私の母さん。
「こいつが急に殴りかかってきたんだ」──右頬に大きな湿布を貼った今岡が指さしてくる。
「うちの子の顔にこんな怪我をさせて……謝って済むとお思いですか」──今岡の母親がヒステリックに言う。
「お母さん、落ち着いて……まず何があったかを聞きましょう」──監督が立ち上がって諌める。
「A、どうして殴ったりしたの？」──コーチがこちらを覗き込んでくる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 69人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「原作沿い」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月15日 9時
