64 向けられた矛先 ページ14
四年前、当時小学四年生。
ジュニアサッカーチーム・稲妻KFCの入団テストに合格した私は、程なくしてスタメンに起用された。
バイオリンをやめたばかりで荒んでいたこともあり、四六時中ボールを追いかけていた努力が実ったのだ。
こんなことを言うのもなんだが……それなりにチームの戦力になって、周りからも一目置かれていたと思う。
しかしそれを面白く思わなかったのが今岡健太郎、当時小学六年生。
同じMFだったということもあり、知らぬ間に反感を買っていたらしい。
最初はすれ違いざまに罵られる程度だった。
「女のくせに」「初心者がいきがるな」「態度が生意気」──そんなようなことを言われた記憶がある。
私は相手にしなかった。悔しかったら実力で捩じ伏せてみろ、と思っていた。
そしたら次は物を隠されるようになった。
水筒、すね当て、上着。どれもいつの間にかなくなっていた。
しかし──コーチや監督に相談し、もっとよく探せと言われて探したら、必ず見つかる場所にいつも隠されていた。
だから「今岡にやられた」と言っても「自分の不注意のせいじゃないのか」と返され、相手にしてくれなかった。
今岡は表向きは人当たりのいい人間を演じていた。
その上私に対する嫌がらせのやり口が巧妙で、誰に見られることもなかったから、疑われることもなかった。
次はフィールドで、周囲が気づかない程度のラフプレーが行われるようになった。
足を踏む、ひじをぶつける、チャージで吹き飛ばす。サッカーは元々接触の多いスポーツだから、このくらいのことはままある。
しかし私にはわかっていた。今岡の行為には明らかに私に対する攻撃意志が宿っているのだ。わざとだと確信があった。
しかし確信はあれど証拠はなかったから、今岡が注意されることもなかった。
長期間にわたって嫌がらせは続いた。
ほっといたらそのうち飽きるだろうと思っていたが、止まない。
ねちっこく攻撃を続けられ、私にもストレスが溜まってきて、プレーの質が落ちた。シュートは外すようになったし、トラップミスも増えた。
今岡からしたらきっと作戦通りだった。私の心をすり減らし、排除することで、注目は再び自分に集まる。そんな思惑を持っていたのだろう。
だけどサッカーをやめるという選択肢は最初からなかった。
その頃には誰に相談しても信じて貰えないだろうと思っていたので、コーチや監督、そして家族にも──私が受けている嫌がらせのことは言わなかった。
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月15日 9時