99 進むために ページ49
「次の休み、いつ?」
電話の向こうで父さんが目を丸くした──気がした。正直私でも自分の言ったことに驚いている。
顔を見て話さないと根本的な解決にはならない。そう直感的に感じたのだ。
メールや電話で打ち明けるのは確かに便利で簡単だけど……逃げになるんじゃないか。そんな思いがあったから。
「明日……だな。全休だ」
「こっち来れたりする?」
言ってから、無茶な願いをしたかもしれないと後悔した。
声色からして父さんは多分疲れてる。そんな相手を自分の都合で振り回すのは少しだけ躊躇われた。しかし、
「ああ、まあ。少しだけなら」
幾らかの間の後、そう返ってきた。
この期を逃したら次はいつになるかわからない。私はほとんど意識する前に早口で言った。
「個人的に話したいことある……部活終わるの夕方だから、あんまり時間ないかもしれないけど」
「わかった」
「あと、母さんにも会ってほしい」
父さんは「ああ。連絡しておく」と呟いて通話を切った。
画面には「1:32」という通話時間が表示されている。一年間の溝を埋めるための前準備にしては、いささか短い時間な気がした。
いつも通りに話せていただろうか。そもそも父さんと一緒に暮らしていた頃はどんな話をしていたのだろうか。
同じ空間にいてもほとんど会話をしなかった気がする。不仲とかそんなんじゃなくて、昔からずっとそんな風だった。私が無口なのは父さんに似たんだ。
居間に降りると、母さんが誰かと──多分父さんと電話をしていた。
私の姿をちらと見ながら「ええ……ええ、昼前に来るのね?」と確認をしている。
しばらくして通話を終えた母さんは、驚愕と不安がない混ぜになったような視線をこちらに向けてきた。私は真正面からそれを受け止める。
「ちゃんと謝らなきゃいけないと思ったの」
「でも、お父さんは怒ってないって……」
「怒ってなくても、私が悪かったことは変わらない」
せめてあの時自制できていれば、父さんを責めなければ。今頃はこの家で、家族四人で暮らせていたかもしれない。
過ぎたことを悔いてもどうしようもない。だからこれから先どうしていくかを考える必要がある。
「ちゃんと話して、自分のことも伝えてくる。それで……また一緒に暮らそうって言ってくる」
私の言葉に、母さんは静かに頷いてくれた。
元あった家族の形が、少しずつ戻ろうとしていた。
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月15日 9時