341 多重時間理論 ページ34
「それは歴史干渉の中にいたか、外にいたかの違いじゃよ」
またも新たな訪問者。今度は嗄れた声。ここまできたらもう滅多なことでは驚かなくなってきた。
入口近くにいたのは、立派な髭を蓄えた小柄な老人だった。
「アルノ博士！」
「どうしてここに？」
フェイとワンダバが素っ頓狂な声を上げる。
反射的に神童の服の裾をちょいと摘んで説明を求めたものの、首を横に振られてしまった。この人との面識はないらしい。
「エルドラドの手が迫ったものでな。時空を超えてちょいとランナウェイ……ま、逃げてきたってわけじゃよ」
「大丈夫なんですか？」
「ワシにぬかりがあるものか。追手は今頃ワームホールで迷子になっているはずじゃ」
その人は当たり前のように歩いてきて、みんなの前に立った。
「紹介しよう！ 誰あろうこのお方こそ──多重時間理論を提唱する大科学者にして、タイムマシンの発明者……クロスワード・アルノ博士だ！」
ワンダバに紹介されたアルノ博士は、ピースサインを掲げて高らかに笑っている。
私含め、みんなはただポカンとしていた。ただ一人茜だけが、未来の科学者に会えた興奮で瞳を輝かせていた。
「ちょうどいい。この機会に、博士に多重時間理論を解説して頂こう」
「うむ」
博士は頷き、耳につけたインカムのような機械を何やら操作した。するとどういう仕組みか、目の前のスクリーンにスライドが映し出される。
『Dr.アルノの早わかり多重時間理論』。ご丁寧にふりがな付きだ。
画面が切り替わった。一本の白い線の上を、ピクトグラムみたいな人間が歩いている。
「本来、時の流れとは本流の一本のみなんじゃ。じゃが今回のように歴史を変えることによって、時間の新たな流れ──パラレルワールドができるんじゃ。
また時としてパラレルワールドは一つだけではなく、複数できる場合もある」
画面上に線が何本も現れる。それが恐らく支流なのだろう。
「A先輩や、剣城のお兄さんの時みたいな感じですね。でも俺たちと一緒に戦った優一さんは、元に戻った……」
天馬の言葉に、私と剣城は顔を見合わせた。ここで私たちの名前が出る理由がわからない。
まさか、エルドラドから何らかの介入があったのだろうか。しかしそんな記憶は全くない。
「どういうことだ？」
「詳しいことはいずれ話すよ」
フェイの言葉を受け、ひとまず話題は多重時間理論の解説に戻った。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
