342 サッカーの未来 ページ35
「パラレルワールドにはもう一つ、大きな特性がある。変えられた歴史は一時的に複数のラインを見せていても、徐々に一つに戻ろうとする。本物となった流れ以外はやがて消えてしまうのじゃ。
例えば、弾いたギターの弦のようなものじゃな」
たくさんあった線はやがて最初からあった本流に収束した。その様子は確かにギターの弦に似ている。
今度は画面の線が二本になった。上の線の上を歩いている三人のピクトグラムはオレンジに色付けされている。あれが多分神童たちだ。逆に下の線を歩いている青いピクトグラムは私たちだろう。
「今回の場合、タイムジャンプして並行する別の時間の流れにいた天馬くんたちは、時間介入の影響を受けていない。だから本当の一か月前の試合の記憶を持っているのじゃ」
「このまま放っておくとサッカー禁止令が本当の歴史になってしまう」
「その通り！ 君なかなか賢いのう！」
博士に褒められた茜は嬉しそうに笑う。
本当の歴史は、サッカー禁止令なんて出されなかった。今頃も自由にサッカーを楽しめているはずだったと考えていいのだろうか。
「何もしなければ、俺たちは俺たちの未来を失ってしまうということか」
神童の言葉を聞いた私の背に冷たいものが降りた。
未来とかパラレルワールドとか、まだ全てを理解することはできていないけれど……サッカーそのものが失われるという現実が、ようやく実態を伴って目の前に迫ってきた気がした。
「難しいことはわからん！ わしらはどうすればいいんぜよ！？」
与えられた情報量にパンクしたのか、錦が勢いよく立ち上がった。博士は平然とした表情でそれに答える。
「なに簡単なことじゃよ。歴史の改変が固定する前にインタラプトまでタイムジャンプするんじゃ」
「そう！ そして──我々の手でエルドラドの介入を阻止するのだ！」
なんでも私たちがアメリカチームと入れ替わって、プロトコルオメガと戦うということらしい。
本当にそんなことができるのかという思いが半分、時空を超えるという思ってもみなかった展開に驚愕する思いが半分だった。
だけど──このまま何もしないで未来を失うのは嫌だ。
「俺行きます！ 行ってサッカーを取り戻しましょう！ サッカーのない世界なんて嫌です！」
天馬の言葉には全員が頷いた。
相手は未来人、私たちの想像もつかない手段をこれからも使ってくるだろう。でも戦わなければ、サッカーはなくなる。
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年11月2日 10時
