【イナクロ】君へ贈る旋律第十六楽章【神童拓人】 (ページ39)

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746　翡翠の瞳が視るものページ39

思わず目を瞬かせる。その言葉の真意を図りかねた私は、首を傾げるよりほかになかった。

胸に手を当てても、自分の体温以上の熱は感じられない。日之芽(ひのめ)さんはそんな私の仕草を見ながら語り始める。

「これは久米彦(くめひこ)にも言ったことがないのだが……私は物心ついた時から、他人の中にある『力』というべきものを見ることができた。それは人によって霧のように実体を持たないものだったり、岩のようにどっしりと存在感を放つものだったりした」

──日之芽さんの言うそれは、一種の共感覚のようなものかもしれない。

それを今まで他人に話したことがなかったのは、単純に信じてもらえないからだというのもあるだろうけれど……王として、霊媒師のように曖昧なものを盾にするのを、日之芽さん自身が許さなかったのだろう。

「初めて君と会った時、それは驚いたよ。あまりに強く燃え盛る炎が見えたから。出自の不明な君たちを詮議にかけた時、それを利用した。投獄するのは心苦しかったから、無理難題を課して国外へ追放するつもりでいたんだ」

私が火の中へ一歩を踏み出した瞬間、大事になる前に兵士たちが水をかける手はずになっていたらしい。

だけど私はどういうことか、端から端まで炎の道を渡ってしまった。想定外の事態に日之芽さんも困惑したみたいだったが、「一度した約束は守り抜く」と腹をくくってくれたようだった。

「君の中に眠る強大な力は、きっとこの先仲間たちを窮地から救うことだろう。私はそう確信しているよ」

その力強い言葉は、しかし私を鼓舞するには至らなかった。

自分の両手のひらを見つめる。本当に救えるのだろうか、この手で。己の中にあるその炎とやらにだって、気づけていないというのに。

「不安か？」

日之芽さんの問いかけに頷く代わりに、私は口を開いた。

「仲間たちは皆、それぞれに優れた力を持っています。大局を見抜いて選手を先導する力、仲間の勇気を奮い立たせる力、未来をも見通す状況推理能力……」

無二の指導力を振るう神童、私たちの背中を支えてくれる霧野、常に的確に状況を分析できる太陽。

「鉄壁の如く強靭な行動力、海のような広い心で攻守を繋ぐ力、稲妻を彷彿とさせる速さで駆ける力」

守護神としてゴールを死守する信助、大胆なプレーで戦局を動かす錦、一点突破で得点をもぎ取る剣城。