699 聖獣の姿 ページ42
──悩んでる暇があったら動く！
クロエの声が頭の中に強く響いた。瞬間、視界に電撃が走ったかのような衝撃があった。
拳で自分の太ももを殴りつけて走り出す。向かう先は、ボールを持つ相手FW。
迷いを捨て、スライディングでブロックを仕掛ける。果たして私の足はボールを捉えていた。
しかし手ごたえを感じたのも束の間、すぐさま別の選手がフォローに入り、プレーを途切れさせることは叶わなかった。
振り向けばディフェンスラインが突破されていて、百発百中のシュートが放たれようとしていた。
「「『シュートコマンド20』」」
「《ミキシトランス・劉備》──『大国謳歌』！」
必殺技が破られ、ゴールネットが揺れる。
0-3。広がった差に、チームの間に一瞬重苦しい空気が広がった。
──流れを引き寄せるんだ。でも、一体どうやって？
試合再開。先ほどと同様フェイが前に出るも、すぐさま三人の選手に行く手を阻まれる。
激しい攻防が続いた。このままではボールを奪われるのも時間の問題。だがDFのポジションにいる自分は不用意に動けない。そう思った時。
「フェイ！」
フェイの名を呼びながら誰かが飛び出した──それはなんと、黄名子だった。
自分のエリアをがら空きにして走り出すその姿を見て、私は驚愕する。霧野とトーブとアイコンタクトをかわし、ひとまず私が黄名子のいた場所をカバーした。
「持ち場に戻るんだ！」
「フェイ、早く！」
フェイは一瞬迷って黄名子にパスを出した。しかしプレーが繋がったのは一瞬のことだった。
「「『ディフェンスコマンド14』」」
ディフェンス技の餌食となった黄名子の身体は地面に打ち付けられる。天馬とフェイがそこに駆け寄った。
黄名子のあんなプレーは初めて見た。自棄になっているのではないだろうが、胸に確固たる意志を宿したような、そんな動きだった。
衝撃で転がったボールが、マスタードラゴンの沈んだ湖に落ちる。
すうと湖面が一瞬、淡く発光した。見間違いだろうか、そう思った次の瞬間。
水面が勢いよく盛り上がり、大きな影が姿を現した。水しぶきが雨となって、芝生を濡らす。
──そこにいたのは白い龍だった。その巨躯からは獣の獰猛さが、翡翠の瞳には賢者の知性がたたえられている。
私たちはその場に立ち止まって、聖獣を見つめた。龍の姿はただただ美しかった。
マスタードラゴンが、復活したのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 232人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
