【イナクロ】君へ贈る旋律第十四楽章【神童拓人】 (ページ32)

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639　死者のためのページ32

それから私たちは岩を積み上げ、洞窟の近くにロックスターのお墓を作った。

真っ赤な夕日が照らす世界。完成したお墓を前にして初めて、トーブは両の目から大粒の涙を零した。

「えれぇぞロックスター！よく頑張ったなぁ！ビッグのことは、おらが面倒見る──だから、だから心配すんな……！」

腕で顔を覆い、誰の目も憚らずに泣く。その隣でビッグは、何度も親の名を呼ぶように声を上げていた。

「万物の掟だなんて言ってたけど、やっぱり悲しいよな……」

「ロックスターは、友達だったんですもんね」

水鳥と葵の会話を聞きながら、私はお墓を見つめていた。

あまりに突然の別れ。それはロックスターと初めて対面したばかりの私たちの中にも、暗い影を落とした。

自然の摂理とわかっていても、現実を受け止め切れるはどうかはまた別の話なのだ。

──その時、クロエが一歩前に出た。青い瞳はお墓に向けられていたが、そこを通り越して、もっと向こうを見据えているように見えた。

クロエは十字架のペンダントを握りこむように、両手の指を組んだ。そうして息を吸い込む。

「♪Requiem aeternam dona eis Domine: et lux perpetua luceat eis.」
(主よ、永遠の安息を死者に与えてください。永遠の光で死者を照らしてください)

歌声は、夕空に向かって真っすぐと伸びていった。

その場の全員が息を呑む。クロエの声の、竪琴を彷彿とさせる清冽さに。

それは我が子を守り、慈しんだロックスターに対しての鎮魂歌だった。

「♪Te decet hymnus, Deus, in Sion; et tibi reddetur votum in Ierusalem:
　 Qui audis orationem, ad te omnis caro veniet propter iniquitatem.」
(賛美をささげます。シオンにいます神よ。エルサレムでは貴方に満願の捧げ物をささげます。
　祈りを聞いてくださる神よ、すべて肉なるものはあなたのもとに来ます)

ラテン語と思しき歌詞の意味までは、私たちは汲み取ることができない。

だけど歌声にこもる静謐さは、紛れもなく死者を悼むものだった。

「♪Requiem aeternam dona eis Domine: et lux perpetua luceat eis.」
(主よ、永遠の安息を死者に与えてください。永遠の光で死者を照らしてください)

最後の音の残滓が消えると、場には静寂が訪れた。

私はその時ふと、ジャンヌがクロエのことを神の使いと勘違いしていたことを思い出した。しかしそれは間違いではなかったのかもしれないと、クロエの後ろ姿を見て思った。