48 噛み合わない歯車 ページ48
「円堂監督」
言い合いがほんの僅か途切れたところで、南沢さんが前に進み出る。
「なんだ？」
「俺、退部します」
──そうして告げられた言葉に、息もつけないほど驚愕した。
退部します。エコーがかかったようにその一言が頭の中で反響している。
「やめるって、本気なのか？！」
「ああ。もう付き合いきれない」
車田先輩の引き止めもすげなく断られた。
「やめられるのか？」
「はい……では」
最後に監督に一礼して、南沢さんは去っていく。
その背中がどんどん小さくなっていく。
「南沢、さ──」
知らず自分の口から漏れていた声は、その場の誰にも届かないほど小さく、か細く。
『ある程度できれば、卒業後の進路にも困らない』『熱血ごっこはよそでやってくれって話なんだよ』──そう言っていた南沢さんの瞳は、いつだって諦観に満ちていて。
誰かの善は誰かの悪。そう思っていても、いざ目の前に仲間の離反を目にすると、心の中に小さな迷いが生じた。
＊
夕暮れの河川敷。
誰もいないフィールドで一人、ボールを蹴る。
練習後、河川敷に誰もいない時は、たまにこうしてこっそりボールを追いかけているのだ。
稲妻KFCをやめてからも、サッカー自体をやめることはできなくて。
見えない敵をイメージしてドリブル。パス──はできないから、そのままシュート。ゴールネットが揺れるが、晴れやかな気分にはなれなかった。
ボールも拾いに行かず、その場にしゃがみこむ。
私はマネージャー。サッカーができたとしても試合には出れない。サポートができたとしても出しゃばることはできない。
このままいくと部は内部から壊滅してしまう可能性もある。考えたくないことだが。
──一体、どうすれば。
顔を上げ、何気なく視界に入った並木。その一本にふと目が留まった。
木の枝にサッカーボールが引っかかっていたのだ。周囲には誰もいない。あの辺で遊んでいた誰かが引っ掛けて、諦めて帰っていったのだろうか。
一瞬、体育館の天井に挟まったバレーボールを彷彿とさせたが──あの木の高さならなんとかなりそうだ。取ってあげて、その辺に置いといたらいいだろう。
近寄って、木の幹にしがみつく。
正直木登りなんてまともにやったことがなかったが、案外いけた。幹に身体をへばりつかせるようにしながらよじ登っていく。
そうして枝の方に身を乗り出し、ボールに手が届くかと思った時──不意に下から声がした。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
