42 漏れる本音 ページ42
「あいつら……？」
「新入りと監督」
名前すら呼びたくないのか、短くそれだけ言った。
「本当のサッカーだの打倒フィフスだの、熱血ごっこはよそでやってくれって話なんだよ」
熱血ごっこ。天馬たちの頑張りは、南沢さんの目にはそう映っているのだ。
誰かの善は誰かの悪。全員が同じ目標を持つのは難しいだろうけど、でも。
「私は……天馬たちに賭けてみたいって思ってます」
はっきりと言えた。この二週間余り、ずっとそのひたむきな姿を見て、私の心象にも変化が生じたのだ。
しかし強制はしたくない。だからそう言うだけに留めた。
「あっそ」
南沢さんは心底興味がなさそうな返事をして、前を向く。
多分、みんな……神童と同じような気持ちでいるはずだ。サッカーが好きだけど、我慢せざるを得ない。
だって本当に内申のためだけにこだわるのなら、サッカー部をとうにやめているはずだから。そう自分に言い聞かせた。
＊
雲ひとつない快晴の下、ホーリーロード開会式が執り行われた。
整然と並んだ選手たちを見渡す。どこも強豪校、相手にとって不足はない──と、手放しで思うことはできない。
勝敗指示に従えば、私たちは初戦敗退なのだから。
一回戦はその後すぐ、天河原中にて行われる。
「神童……」
ウォーミングアップ中、私は小声で話しかけた。
言いたいことを察してくれたのか、神童はこちらに耳を寄せる。
「指示に、従う？」
一年生二人だけでは、到底勝つことはできない。気概だけで突破できるほど相手も弱くないのだ。
しかし、神童は。
「──いや、この試合、勝ってみせる。たとえ俺と天馬と信助、三人だけのプレーになろうとも」
そう言ってみせた。
瞳に宿る確固たる意思。もう迷わない──そんな決意が現れている。
その瞳を見て、私はしっかりと頷いた。自分の業務をこなすために立ち上がる。
「空野さん、冷やす物の準備、いつもより多めにお願い」
「は、はい！」
あまり考えたくないが、ラフプレーの多い天河原中のことだ。雷門の誰が怪我をするかわからない。
誰が負傷してもいいように──というのはいささか語弊があるか。全員無事ならそれが一番いい。
両チームがポジションについた。天河原メンバーの顔には、挑発的な笑みが浮かんでいる。
予定通りの開始時刻──審判のホイッスルが鳴り響く。
天河原中からのキックオフで、試合は開始された。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 104人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
