36 最後のワンプレー ページ36
神童からの反応はない。
「好きだから……サッカー部入って、今までやってきたんでしょう」
たかがマネージャー1人の、薄っぺらな言葉だと思われてもよかった。
一年間、ベンチから見てきた。劣等感と憧れを抱きながら。
サッカーが好き。その気持ちはプレーにしっかりと表れていたのだ。
「だったらその気持ちに嘘つく必要はないと思う」
弾かれたように神童が顔を上げた。目が合う。今度は逸らさない。
向き合うと決めた。逃げないと決めた。自分のことからも、神童のことからも。
「お前も俺を責め立てるのか──」
「え?」
「……いや、なんでもない」
言葉は途中で切られる。
そこから河川敷に到着するまで、私たちは誰も何も話さなかった。
*
河川敷には西園もいて、三人でのプレーが始まる。
「ボールの動きをよく見ろ! サッカーが好きってことと、サッカーができることは違うぞ!」
このプレーが終わったら、神童は本当に部を去ることになるのだろう。
引き止めの言葉は届かなかった。ならせめてこの風景を目に焼き付けようと、前のめりになって観戦する。
「『フォルテシモ』!」
松風からボールを奪った神童は、そのまま無人のゴールへ必殺技を繰り出した。
華麗な旋律を纏ったシュートは、ネットに突き刺さる。
神童の技を初めて間近で見た一年生二人ははしゃいでいたが、用は済んだとばかりに立ち去ろうとする神童を見て慌てて頭を下げる。
「「ありがとうございました!」」
神童は最後に立ち止まり、後輩の方を振り向く。
「もし、本当のサッカーができるようになったら……戻ってきてくれますか?」
ベンチから立ち、駆け寄ろうとした私の足が途中で止まった。
神童が突如として松風のボールを奪い、フィールドを駆け出したのだ。
「わかってないな──本当のサッカーなんてもうないんだ!」
放たれたシュートはゴールポストに当たって逸れ、西園がすかさずカバー。
松風と神童の一騎打ちとなった。
「俺たちが本当のサッカーするの、サッカーだってきっと待ってます!」
「その想いが本物なら、俺を抜いてみせろ!」
どちらも一歩も引かない、激しい攻防。
私は松風の足さばきに目を瞠った。ボールをしっかりキープできている。少し前の松風なら、とっくに奪われていそうだったのに。
「練習の成果だな」
ふと横からそんな声がして、驚いて振り向く。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時