30 破られた指示 ページ30
後半は栄都のキックオフでスタートした。
「とにかく応援だ！ 行けー天馬──」
水鳥の突き出した拳が止まる。
松風は突っ立ったまま動かなかった。俯いて、ただそこにいる。
相手選手のチャージを受け、尻もちをついても……動かなかった。
互角の攻防が続けられ、栄都に追加点が入る。
3-0。これで指示は守られた。
しかし。
それまで棒立ちだった松風が猛烈に走り出し、ボールを奪った。
そのまま神童にパスするが、軌道が大きく逸れる。
まさか──勝ちに行こうとしているのか。
奪われる、取り返す。体を張って、ボロボロになりながら。諦めることなんて初めから頭にないように。
そうして何度も神童にボールを渡す。神童は動かない。
と──小さな影が高く飛んで、栄都のパスをカットした。
西園だ。
ボールは松風に渡り、そして。
「キャプテン！」
正確なパス。
──それはまさに、一瞬の出来事。
神童の、ダイレクトシュートを打つ姿がフィールドにあった。
放たれた強力なボールは、キーパーの必殺技を破り──ゴールネットに突き刺さる。
試合、終了。
相手チームも私たちも、ただ呆然としていた。
結果的に、試合には負けた。
しかしこの一点が、どういう意味を示すのか。シュートを決めた神童にも、それはわからないだろう。
わかるのは──フィフスセクターだけだ。
この試合での処遇は、久遠監督に与えられた。
異動という形で。
＊
翌日の朝練は、いつもの活気がどこにもなかった。
久遠監督は異動、神童は休み。栄都戦での出来事が、みんなの心に暗い影を落としているようだった。
車田先輩が喝を入れるも、お互いに顔を見合わせるばかり。
練習は早々に切り上げられ、全員がフィールドの外に出る。
「久遠監督はこんな雁字搦めの状況でも、俺たちの自由を認めてくれていたよな」
「けれどそれももう、できなくなりますね」
「ま、どうせ新しい監督もフィフスから来るんだろ。適当に言うこと聞いて、内申書で合格点貰えばいいさ」
車田さんと霧野の言葉を受けてか受けずか、南沢さんはそう言って前髪をかき上げる。
サッカーをやるために、本当のサッカーが制限される。そんな本末転倒な事態を、誰にもどうにかすることはできない。
「結局、誰が来たって同じってことか」
「そんなことはないぞー！」
突如、暗雲を切り裂くかのような、溌剌とした声が聞こえてきた。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります！ マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (
レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました！主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キメラ | 作成日時：2022年2月3日 23時
