21 遠い和睦 ページ21
翌日、放課後。
練習の前に、とりあえず部員たちの自己紹介をすることになった。
私は二、三年生の列の端っこに並ぶ。
「よし、まずはお前からだ天馬! ビシッと決めろ」
何気に新入部員側に並んでいた水鳥が、松風の背中を叩いた。
昨日はただの野次馬をしにきたと思っていたのに、入部してしまうのか。
「貴方は……? マネージャー志望かしら?」
同じように疑問に思ったのだろう、音無先生が首を傾げる。
「そんな面倒なことはやんねーよ。まあなんつーの、コイツの私設応援団って感じ」
昨日言ってたことと全く同じことを言ってのけた。
まあでも、一応肩書きはマネージャーになりそうだし……ついでにまとめて仕事を教えちゃってもいいか。本人が聞く耳を持ってくれればの話だけど。
「でもあたしのことは気にしなくていーから……ほれ」
水鳥は再び、松風を前へ押し出す。どうしてもトップバッターにさせたいらしい。
本人は私たち上級生の視線を受けて、ガチガチに緊張しているようだった。まあ無理もない。
「松風天馬一年ですっ! ……と、とにかくサッカー大好きなので、よろしくお願いします!」
「西園信助、一年です! 小学校ではディフェンダーをやってました。頑張りますので、よろしくお願いします!」
途中詰まりながらも、なんとか言い終えた松風。危なげなく堂々と言い終えた西園。
──ディフェンダーだったのか、西園。昨日のテストでも高いジャンプ力が垣間見えていたから、それを活かせるかどうか、というところだろう。
「次……」
神童が促す。その視線の先には、壁にもたれて腕を組んだ剣城。
「おい、次だ! 聞こえねえのかよ!」
「──剣城京介」
車田さんの怒号も意に介さない様子で、不敵に笑いながらそれだけ言う。
「もうダメだ、あんなやつが入ってきて……やっぱり俺達のこと潰しに来たのかな」
「そうじゃね?」
「ちょっと、浜野……」
隣で交わされる、速水と浜野の不穏な会話に思わず割り込む。
冗談のつもりなのだろうが、さらっとそんなことを言われたらこっちも気が気じゃない。
「Aはどう思う?」
「どう、って……今すぐ潰されるってことはさすがにないだろうけど」
「遅かれ早かれ同じことです。もう終わりだ……」
速水の顔にどんどん翳りが差していく。
私は浜野と顔を見合わせ、こっそり肩をすくめた。
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キメラ(プロフ) - 充滞さん» 充滞さん、コメントありがとうございます。そう言っていただけてとても光栄です、励みになります! マイペース更新ですが見守っていただけると嬉しいです。 (2022年5月24日 21時) (レス) id: 6fadaab96b (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - キャラがとても公式よりで、とてもドキドキしました!主人公が抱く神童への劣等感、羨望を感じます。木から落ちる主人公を剣城が受け止めるシーンにときめきました。この小説を作ってくださりありがとうございます (2022年5月23日 11時) (レス) @page49 id: 7d360b94a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キメラ | 作成日時:2022年2月3日 23時