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「グッ、い゛っ……!」


痛さのあまりに声を漏らしたが、それは後に快感に変わって行く。
甘い所、だなんてあるものか。胸元は皮膚が柔らかいから甘いのか、それとも心臓に近い部分だから甘いのか。それは私には分からないが、ただこの状況から逃げ出したいことだけは確かだった。

ふ、と固く閉ざした口からどうしようもなく息が漏れる。
その息は痛覚から来るものではなく、快感から来るものである。けれど、それを自覚した瞬間にどうしようもなく恥ずかしくなり、顔が熱くなっていくのが分かる。


「ん、甘い……恥ずかしいん?」

「っ、るさい……」


ふふ、と笑いながら嬉しそうに私の血を吸うことを辞めない坂田さんから目を逸らす。
死にたくなるような羞恥心と、逃げ出したくなる程の快感がゾクゾクと背中を駆け上がる。その度に変な声が出てしまうし、余計に恥ずかしくなる。悪循環だ。


「あっ……ん、っ」

「んっ……っはぁ……どう?最高やろ?」

「……さい、っあくです」


やがて、私の胸元から口を離すと、真っ赤になった舌をチロリと出す。元より真っ赤だった舌が私の血によって更に赤く染っていた。

あまりに私の血液が甘い甘いと言うのだから本当に甘いのか気になるものだが、微かに香る鉄の匂いから甘そうなものとは到底思えるはずもない。

吸血鬼の本能的に加虐性があるからか、私が嫌がっている姿を見ると誰しもが酷く興奮した表情を浮かべる。勿論、普段からどんなに温厚な坂田さんだって同じ。
だからこそ、そのギャップが……ギャップと言っていいのかわからないが、その温度差が酷く怖く、逆に温厚な時に恐怖を覚えることすらある。
その笑顔の下に何を思っているのかが分からない。


「Aって乗っ取りやすいから好きやわ」

「……甘い所を?」

「そう。甘い所」


語尾にハートマークでも付いていそうなぐらいに機嫌がいい坂田さん。だからこの温度差が恐怖を感じる程に激しい。
紅潮してしまった頬に、ボタンが外れた乱れ切ったシャツ。それらを見たら間違いなく事後だと勘違いされるであろう状況。
それらをきちんと整えて坂田さんに向き直る。


「甘い所、って何ですか」

「んー、カンジョウ?」

「か、感情……?」


そっ、と笑う坂田さんの笑顔が少し裏があるようなものに変わる。
人としての笑顔ではなく、吸血鬼としての笑顔。人としての柔和な笑みだとは到底思えない。

この笑顔、嫌いだ。

×→←7.甘味な蜜の乗っ取り



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ちょこ - 終わってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2021年6月8日 18時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - 皇咲鈴音さん» びっくりしました誰かと思いました笑 みかんさんありがとうございます!本当嬉しいです大好きです(;;) (2020年10月28日 23時) (レス) id: 9beb0497a0 (このIDを非表示/違反報告)
皇咲鈴音(プロフ) - すごい名前になってますがTwitterのみかんです( めっちゃめっちゃ内容好きです!! (2020年10月28日 22時) (レス) id: 72e21fad30 (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃ(プロフ) - 物語の構成が好みすぎました!!更新おまちしております!!! (2020年3月27日 16時) (レス) id: c45d7c6a24 (このIDを非表示/違反報告)
鎖座波(プロフ) - nanaseさん» そのように言って頂き嬉しいです…!コメントありがとうございます!更新頑張ります…! (2020年3月8日 6時) (レス) id: 7dc015f2ad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鎖座波 | 作者ホームページ:もう既に血が足りない  
作成日時:2019年10月19日 15時

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