男 ページ9
「ヨォ、体調は如何だ?」
ガチャっと扉を開ける音と共に訪問者は部屋に入ってきた。
見慣れた橙色の神と黒い帽子。そう、紛れもなく中也だ。
熱で朦朧とした意識で捉えた中也の手には鍋の様なものが有り、其れは湯気を上げている様子から、先程作られたばかりの物なのだと判る。
『…其れ…』
「あ?…嗚呼、白粥だ。俺が今さっき作ったから、味は保証しねぇぞ」
わざわざ忙しいのに作ってくれたのだと判り、私はつい頬が緩んでしまった。
『…有難う』
無意識に笑った私の顔を見て、中也は「おう」とそっぽを向き乍ら応えた。
中原中也と云う男は世話焼きな奴だ。誰か部下が困ってれば助けてしまうくらいには。
朝から熱でふらついていた私は、そんな世話焼きな幹部にバレて、仕事の合間にこうやって看病してもらっている。
正直、かなり熱があったから助かった。もう余り体が云う事を聞いてくれない状態だ。 今こうやって寝台から起き上がるのも漸と。中也から器を受け取ろうと腕を伸ばすが、頭がボーッとして上手く力が入らない。
「良いから、口開けてろ」
そんな様子に見兼ねた中也は寝台の側にしゃがみ、匙で白粥を掬うとふぅふぅと息を吹きかけてから私の口に入れた。朝から食べていなかった私の体に、程よい塩加減の白粥が染み渡る。お粥ってこんな美味しいものだったか。
『…美味しい』
そう呟くと、中也は「そうか」と笑い、食べさせた匙で再びお粥を一掬いし、また息を吹きかけて私の口へと運んだ。
『御馳走様でした』
食欲が無かった筈なのに、鍋一杯にあった白粥を全て食べる事が出来た。
「意外と食欲はあんのな」
空になった鍋を見て驚いた様に、でも何処か可笑しいのか笑う中也に、胸がキュッとなった感覚がした。
14人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りん(プロフ) - この作品、何度読んでも良いです。泣けます。 (2018年5月30日 23時) (レス) id: 0f68341c00 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:豆猫 | 作成日時:2018年3月14日 7時