【文スト】中原中也と云う男。【中原中也】

也 ページ5

「う〜〜」

『…まぁ、こうなるだろうとは思ったけどさ……』

あの後、直ぐに仕事を終わらせた私は、中也ととあるバーへ呑みに出かけた。然しワイン一杯目でこのザマである。

中原中也という男は酒に弱い。酒好きのくせに一杯で潰れる。酔った後の始末を任されるこちらの身にもなって欲しいものだ

『ほら中也、帰るよ』

「うるせ〜！俺ァ未だ呑めるぞ〜〜！」

『もうベロベロじゃんか』

「まぁだ呑めるっつってんだろ〜！！」

余りにも中也が帰りたくないと駄々をこねるのでもう少しだけ付き合ってやる事にした。こっちは明日重要な任務があるって云うのに、自己中な奴め。
溜息をつきながら再び椅子に座ると中也は勝ち誇ったような笑みを浮かべて来た。此奴置いて先帰ってやろうか。

「おいマスター！ワイン一杯！」

『ハァ……カクテルお代わり』

客は私達しかいない為、頼んだらすぐに酒が持って来られた。
中也は受け取ったと思えばグッとワインを飲み干す。弱い癖に一気飲みなんてしやがて。そう思いながら私もカクテルグラスに入れられたブルーのカクテルをクッと飲み干す。アルコールが喉を焼くような感覚が堪らない。中也は更に出来上がってしまった様子だ。

「俺ァよォA〜、もう疲れたんだよ〜〜」

『それは私もだよ』

「今日くれェ呑んでも良いだろ〜？？」

『いつも呑んでるでしょ』

「俺ァもう疲れたんだ〜！！」

『其れ先刻も聞いたよ』

こうなると面倒臭い。とっとと此奴を負ぶって帰るとしよう。お金は……中也の財布から取っておくか。


「A〜空が回ってるぞ〜〜」

『あんたの視界がぐるぐる回ってんでしょ、弱いくせに呑み過ぎなんだよ馬鹿中也』

「うるせェ〜！」

『はいはい、耳元で大声出さないで頂戴』

中也の戯言を右から左に流しつつ、適当に返答する。顔を赤らめながら体重を預けてくる中也は、男としてのプライドが無いのだろうか。

「なァA〜」

『何』

「好きだぜ〜」

『…はいはい』

「聞いてんのかァ〜？」

『聞いてるって』

肩に頭を乗せて、機嫌良さそうな口調でサラリと云う甘い台詞は、もう呑みに行く度だから慣れてしまった。
数分後、耳元で規則正しい息遣いが聞こえて来たので寝たのだとわかった。




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『…私も好きだよ』






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ポツリと呟いたその言葉は、誰の耳にも届かずに満点の星空に溶けて消えた。

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