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「藤井くんッ」と、迎えに来ていた車に向かい校門を抜けそうとしていた彼の名を叫び、
立ち止まり、驚いた様子で目を見開く彼が見上げるように振り返ったのを見て息が呑む
吹き抜ける強い冬風に乱れる髪も気にせず
「藤井くん、あのねっ」って、私は恥を捨てて言葉を紡ぎ始めた
「ずっと考えてたんや、どうして藤井くんはみんなの憧れなんやろうって
でもどれだけ考えても藤井くんは完璧なんかやないの、ただ私達よりも頑張り過ぎただけなの
だから泣いたっていいんよ、泣いたっていいから叫んでや
私に聞こえるように助けてって腹の底からさ、
ねえ、藤井くっ……」
枯れるほどに叫んだ私はその先の言葉を詰まらせる
校門の前、立ち竦む藤井くんの瞳から静かに雫が零れたのだ
それはあまりにも美しい、彼の涙
大ちゃんも私の隣まで駆け寄り窓枠に両手をついて身を乗り出した
「危ないっ」と先生達が彼を取り押さえても
少しでも声が届くようにと体を捩り、抵抗しながら声を荒げて言葉を紡ぎ続ける
「流星俺陸上辞めるっ、陸上辞めて剣道始めるからッ」
「何言うてっ……」
「だから絶対捨てんなよッ！ 竹刀も剣道着も夢も全部っ
流星が宝物手離す必要なんて一つもないんや
だからいつか、俺と手合わせ願いますッ」
深く頭を下げた大ちゃんは首筋に血管を浮き上がらせ、
頬に一筋の跡を残したまま藤井くんは大きく頷き笑顔を見せる
「絶対負けへんからな」と、彼が張り上げた声に大ちゃんは必死に涙を堪えようと顔をぐしゃぐしゃにし、
何も言えずに藤井くんに向かって親指を立てた彼はそんな顔のまま歯を見せて笑っていた
授業の最中でも先生が叱る事はなかったが
その中である一人の男子生徒が勇気を振り絞って声を張り上げてくれた
「藤井今までありがとう」と、それは今も尚瞼に傷を残すあの男子生徒
やっぱり彼はヒーローだった、人気者だった
天才と妬まれどれだけどん底に突き落とされようと
彼の魅力は変わらないから
高校二年、冬
そうして藤井くんはパズルの1ピースだけを握り締め、岡山へと旅立っていきました
今でも瞼を閉じれば思い出します
この日全ての言葉を伝えきった後、
絡み合った視線に笑みを浮かべ、初めて二人乗りをした時の様に二人で同時に見上げた最後の冬空が
悲しい程に青かった事を
私は今でも思い出して、涙が零れそうになってしまうのです
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くまりんご(プロフ) - 84話の流星と大ちゃんのくだりがとても泣けました、桜さんが書く世界観がとても好きです！！これからも頑張ってください！ (2017年8月16日 23時) (
レス) id: e2ac88fff8 (このIDを非表示/違反報告)
しほ - お話読ませていただきました！今までなったことないような、なんとも言えない気持ちになり、何度も何度も読み返してしまいました。これからも応援してます！ (2017年4月30日 12時) (レス) id: 3dfa1a26ca (このIDを非表示/違反報告)
フレンズ - この作品、すごく好きです！ 更新頑張ってください！ (2017年4月20日 14時) (レス) id: 1d5f3d8302 (このIDを非表示/違反報告)
CIEL - 更新、待っていました。流星くんと大吾くんの笑顔と涙が重なって…言葉にできないけれど、頭の中に残っています。これからも、楽しみに待っています。 (2017年3月9日 23時) (レス) id: ebf57fe415 (このIDを非表示/違反報告)
のんぴー(プロフ) - 桜さん、のんぴーです。受験が終わり久しぶりに読ませていただきました。私の持っている言葉ではうまく感想が伝えられません。これからも応援してます。 (2017年3月8日 23時) (レス) id: 4a04a2b822 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜
| 作成日時：2016年9月20日 19時
