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「せんせ、俺古典苦手なんです」
「…うん、知ってるよ」
「俺の名前も知ってはるんですね」
「当たり前でしょ、校長室で自己紹介したじゃない」
俺は言うつもりもなかった
俺たちはもっと前に会うた事あるんやで、なんて、
そしたらせんせーはきっと俺に同情する
俺を可哀想な子だと思って甘やかすのだろう
なら今はまだ知らなくていい
なあ、せんせ、俺ずるいやろ
“知りたい”って思わせたらええんやって、
この時に俺は賭けに出たんや
退屈そうに、興味のない振りをしてその本を持ったままAさんの横を通り抜ければ、
期待通り声を掛けてくれる
俺が貸すのは無理だと言えば、腕を掴んでまで俺を引き止めた
心臓がドクッと跳ね上がる
今までに感じたことのないその感覚、意識なんてモノは全て握られて熱を帯びる手首に集中して、
後ろを振り返ることなんて出来ない
心臓はこんなにも早く鼓動するのかと、
目をギュッと閉じて、せんせーを背に冷静さを保とうと必死になっていた
「…ずっとね、読みたかった本なの、」
「面白いん？」
「…うん、そう聞いた」
「�霤弔擦鵑察爾法�」
突然黙り込むAさん
ゆっくり振り返れば、見開かれた目
揺れる瞳に映る俺は冷静な顔をしていた
“古典を教えて欲しい”
俺のお願いにせんせーは弱みを握られたと思ったのか、怯えたように小さく頷いた
次の日から始まった、俺とせんせーの昼休み
二人きりの、昼休み
.
「ふふっ、今な、古典マンツーマンで教えてもらってんねん」
「なにその急展開っ！やったやんっ！凄いなしげっ！」
嬉しくなって、俺の高校まで来てくれた神山にすぐその事を伝えた
神山は「しげにそういう顔があったなんて知らんかったわ」と笑う
人を惑わせるようなタイプではないと、そんな不器用に人を想うタイプではないと、彼は思っていたらしい
「アレやな、それはしげの“色々顔”やな」
「…色々顔？」
「ぴったりな言葉やろ、しげいっぱいええ顔持ってんで
決してそこに嘘はない正直な心やからこそ、しげにしかそのたくさんの顔は持てへん
しげの色々顔、赤色傘のその人はきっと堕ちるで
そんな気がするよ、俺は」
その言葉に俺は俯いた
そんな俺を横目に、神山は「もっと自信持てって」と、
両腕を広げ、空を仰いでいた
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りぃな - 何度読んでも、涙が止まらない…最後の最後まで泣きっぱなしでした。とても綺麗なお話だなと思いました！桜さんが書くお話、大好きです！ (2020年12月21日 23時) (
レス) id: fbf75e46eb (このIDを非表示/違反報告)
ななこ - 三回ぐらい泣きました。小説でこんなに泣いたのは久しぶりでした。読んでいるだけで、その場面が想像できてとても感動しました。これからも楽しみにしています。 (2020年3月13日 17時) (レス) id: af202158c4 (このIDを非表示/違反報告)
なつき - 最後まで涙が止まりませんでした。ほんまにめっちゃ素敵なお話でした。これからも楽しみにしてます！ (2018年4月9日 16時) (レス) id: ebe0082db9 (このIDを非表示/違反報告)
ひまり(プロフ) - 占ツクでのコメント初めてで恐縮です。本当に本当に綺麗なお話でした。個人的には最後の授業の場面で和歌での会話が1番胸打たれ、思わずメモしてしまいました。桜さんのこれからのご活躍心からお祈りしてます。頑張ってください！！ (2018年3月31日 2時) (レス) id: c01e6017ae (このIDを非表示/違反報告)
ゆー - とても感動しました もし良ければ続編など書いて頂きたいです!! 桜さんの作品、本当に大好きです いつも読んだ後は 素敵な恋愛映画をみた後の様な気持ちになれます これからも楽しみにしています!! 頑張ってください（＾＾） (2017年4月6日 16時) (レス) id: 868e94a9c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜
| 作成日時：2016年5月21日 0時
