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大きな荷物を抱えてふらふらと歩いていれば、
住んでいたのに知らない街のように、
見た事もない景色がたくさんあって、
俺こんなところに住んでたんや
中3にもなって、初めてそう思っていた
行く宛もなくふらふらと歩き、
いい香りにつられて、その香りの先を犬のように辿っていた
日が暮れるのも早いこの季節
気がつけばもう辺りは真っ暗で、街灯と立ち止まった先の店に灯る提灯の明かりだけが見える
「…ええ匂い」
お金もないから、そのお店に入る事もできず、
電柱の陰に座り込み、そのお店から出てくる酔っ払いを延々と見送っていた
ドアが開く度に香る美味しい匂い
いっぱいに吸って、空腹を満たそうとしていた
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「…なあ、自分家出か?」
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目を閉じて必死にその香りを求めてた俺は、近づいていた人にも気付かなかった
頭上からその声は聞こえて思わず後ずさりし、
ガシャンと錆だらけの持ち主のない自転車が倒れた
そんな俺を見て声をかけてくれた男の人は優しく眉をハの字に下げて、
目の前にしゃがみ込み、目線を合わせてくれた
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「俺な、そこで働いてるねん、
いつからここにおったんか知らんけど、ずっとここにおったら風邪ひくで
…自分、家出とはまた違いそうやな
そうなんやろ?何があったか今は言わんでええよ、
とりあえず中入りっ!兄ちゃんがうまいモン作ったる!」
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俺の周りに集まる人は、みんな優しい
家族から優しさなんて、愛なんて、何も教えてもらえなかった俺は、
そんな周りの人たちの優しさに救われて、
その人たちから教わってきた
そのお兄さんは俺の荷物を持って、スタスタと俺がひたすら匂いを求めてたお店の中に入っていく
慌ててそのあとを追えば「オトン厨房借りんで〜」と軽々荷物を奥の部屋へと運び、
どうしたらええのかわからずキョロキョロする俺にお兄さんは大きく笑って、
「そこ座っとき!アレルギーとかある?
…わからん?んー、まあ、大丈夫やろ、
はははっ、そんな顔引きつらせんなって!
照史特製のぶっかけうどんは絶品やで〜!」
そう言って料理を始めた
真剣な表情になったり、戸惑う俺をチラッと見て口角をくいーっと上げたり、
その人は他のお客さんの注文もこなしながら、
空腹の俺に “ぶっかけうどん” というものを作ってくれた
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りぃな - 何度読んでも、涙が止まらない…最後の最後まで泣きっぱなしでした。とても綺麗なお話だなと思いました!桜さんが書くお話、大好きです! (2020年12月21日 23時) (レス) id: fbf75e46eb (このIDを非表示/違反報告)
ななこ - 三回ぐらい泣きました。小説でこんなに泣いたのは久しぶりでした。読んでいるだけで、その場面が想像できてとても感動しました。これからも楽しみにしています。 (2020年3月13日 17時) (レス) id: af202158c4 (このIDを非表示/違反報告)
なつき - 最後まで涙が止まりませんでした。ほんまにめっちゃ素敵なお話でした。これからも楽しみにしてます! (2018年4月9日 16時) (レス) id: ebe0082db9 (このIDを非表示/違反報告)
ひまり(プロフ) - 占ツクでのコメント初めてで恐縮です。本当に本当に綺麗なお話でした。個人的には最後の授業の場面で和歌での会話が1番胸打たれ、思わずメモしてしまいました。桜さんのこれからのご活躍心からお祈りしてます。頑張ってください!! (2018年3月31日 2時) (レス) id: c01e6017ae (このIDを非表示/違反報告)
ゆー - とても感動しました もし良ければ続編など書いて頂きたいです!! 桜さんの作品、本当に大好きです いつも読んだ後は 素敵な恋愛映画をみた後の様な気持ちになれます これからも楽しみにしています!! 頑張ってください(^^) (2017年4月6日 16時) (レス) id: 868e94a9c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜 | 作成日時:2016年5月21日 0時