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「戸惑う事は確かにあったけど、重岡は重岡やから」
俺の問いかけに、神山は真面目に答えてくれる
そんな神山には何度も救われた
けど、彼にも言えなかった事があった
それは中学三年になり、受験に向けて勉強に集中していた、
もう冬の香りがする、秋の日の事
玄関を開けると、俺の荷物だけが置き去りにされていた
慌てて家中を駆け回った
何度も転んで、何度も足を角にぶつけた
ドアを開けても、開けても、空気を切るだけ
空っぽだった
何もない、残るのは大嫌いなはずのあの人達の香り
玄関に戻り、俺の荷物の上に一枚の紙切れを見つけた
《 もう犬の世話は疲れました 》
乾いた笑いが止まらなかった
捨てられた
お望み通りこの家から出て行ってやろうと決めてたのに、
その前に俺は捨てられた
世話なんてされた覚えもねえよ
愛情なんて受け取った覚えもねえよ
俺に何かしてくれたか?産み落とすだけ落として、
それから俺に何かしてくれたか?
どうしてくれるんや、なあ、
俺わからない事ばっかりなんやで
海が青いのは空が青いからだって、
空が青くてもその先は真っ暗闇の宇宙だって、
雨が降って空にかかる7色の輪は“虹”だというのも、
全部、全部、授業でせんせーが教えてくれるのに、
優しさなんて、みんな親から自然と教えてもらうしか出来ないのに
人間としての在り方を、俺は教えられずに捨てられた
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「犬?…ああ、俺の事か」
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悔しかった
清々しいはずなのに、やっと解放されたというのに、
涙が止まらない自分が悔しかった
嫌や、嫌や、独りは嫌なんや
オカン、あんただけは味方でいてくれると思ってたよ
一度だけ手を差し伸べてくれたオカンだけは、
俺を見捨てないでくれると思ってた
「お前らが勝手に俺を作ったんやろ、無責任やな、
ほんまに、産んだくせにその時から犬扱いかよ、
なあ、…なあッ!!俺アンタらになんかしたのかよッ!!」
俺と俺の荷物以外何もないこの家の中でもういないそいつらの残り香に向かって叫んだって、
俺の耳に響いて消えていくだけだった
その時にまた笑えてきたんだ
「ほんまやな、
…俺はキャンキャンうるさい犬みたいや」
荷物を持って家を出た
オレンジ色に染まる空に、烏がカーカーと飛んでいた
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りぃな - 何度読んでも、涙が止まらない…最後の最後まで泣きっぱなしでした。とても綺麗なお話だなと思いました!桜さんが書くお話、大好きです! (2020年12月21日 23時) (レス) id: fbf75e46eb (このIDを非表示/違反報告)
ななこ - 三回ぐらい泣きました。小説でこんなに泣いたのは久しぶりでした。読んでいるだけで、その場面が想像できてとても感動しました。これからも楽しみにしています。 (2020年3月13日 17時) (レス) id: af202158c4 (このIDを非表示/違反報告)
なつき - 最後まで涙が止まりませんでした。ほんまにめっちゃ素敵なお話でした。これからも楽しみにしてます! (2018年4月9日 16時) (レス) id: ebe0082db9 (このIDを非表示/違反報告)
ひまり(プロフ) - 占ツクでのコメント初めてで恐縮です。本当に本当に綺麗なお話でした。個人的には最後の授業の場面で和歌での会話が1番胸打たれ、思わずメモしてしまいました。桜さんのこれからのご活躍心からお祈りしてます。頑張ってください!! (2018年3月31日 2時) (レス) id: c01e6017ae (このIDを非表示/違反報告)
ゆー - とても感動しました もし良ければ続編など書いて頂きたいです!! 桜さんの作品、本当に大好きです いつも読んだ後は 素敵な恋愛映画をみた後の様な気持ちになれます これからも楽しみにしています!! 頑張ってください(^^) (2017年4月6日 16時) (レス) id: 868e94a9c9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜 | 作成日時:2016年5月21日 0時