あの双黒がオタクだった件について。【文豪ストレイドッグス】

《番外編》オタクでも辛いことがあれば泣きたくなるものさ。その8 ページ31

「は？」


中原中也はAの言葉に耳を疑った。


「お前･･･おぼえてねぇのかよ！？

あんなっ･･･あんな残酷なことしといてっ･･･」


中原中也は声を荒らげながらA
の肩を揺さぶりそう言った。


「いたっ！･･･っ本当に！何も分からないんですっ！！

中也さんは一体何の事を言っているんですかっ！！」


Aは目の端に涙を浮かべながら大声でそう叫んだ。

彼女には石村卓造を殺した記憶が無い。

それはAの態度や様子を見れば明らかだった。


「･･･なんだよそれ。」


本人に人を殺した記憶が無い。

それがどんなに残酷なことか。

中原中也は言葉を失った。

そしてそれと同時にあまりにも残酷な仮説と、非人道的な考えが思いついてしまった。

人を殺す度に自身を守る為その記憶が削除されているとしたら？


ポートマフィアはそれを利用してAに大量の殺しをさせるのではないか？


《Aは、ポートマフィアにとって使い勝手の良い兵器になるのでは？》



そんな事が許されていいのか。

ダメだ。Aにそんな事をさせる訳にはいかない。

Aがいつか壊れてしまう。

では自分が彼女を守るか？

しかしこれは自分だけで背負える問題なのか？

思考が上手くまとまらない。



Aは大切な部下だ。

しかし守るということは組織を敵に回すのと同等ではないか？

だとしたら


「俺は･･･どうすりゃいいっ･･･。」


中原中也は自分の無力さに深く絶望し、項垂れた。


「中也さん？」


項垂れる中也の様子を不思議に思い声をかけるA。

しかし中原中也にその声は届いていなかった。

二人きりの医務室の中は不穏な空気に包まれながらただただ時間だけが過ぎていくのだった。








路地裏の奥深くにあるバー。

そこのバーに一人の男が座っていた。


「あの蛞蝓、やぁっと気づいたか。」


男はそう呟きながら人差し指で酒の中に浮かぶ氷をくるんと１回まわした。


「守りたいって気持ちは立派だと思うけれど･･･

生憎Aはあまりにも便利すぎるからねぇ･･･。

例え中也であろうとその気なら私も容赦しないよ。」


その男、太宰治は頬杖をつきニヤリと笑いながらそう呟きグラスをカンっと指で弾いた。









「なんてお話考えてみたんですけどどうですかね！？」

「つまらなそうだし需要あると思えないのだけれど。」

「興味ねぇな。」

「･･･････もっと優しい上司ってどこで手に入るんだろう。｣

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