眠らせて (ページ3)

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私の言葉から数分、結局囁きに満ちた教室は居心地が悪く、早々に出て言く画策をし始めた頃、仮面の男が宙から舞い降りた。

｢お邪魔しますよ！｣
｢お帰りください｣
｢お帰りなさい？帰ってきたつもりは無いですがねえ｣
｢…………｣

呆れてものも言えないとはこのことである。
私は既に全ての事柄にうんざりしていた。突っ込む気すら起きない。
無言を貫くと、返事くらいなさいよ。と私の頭を小突く男。一体何をしに来たのか。

｢いえ、貴方が教室にいるのが珍しいのでねえ……何年ぶりですか？｣
｢さあ……知りませんよ……｣

これ以上無視してこのチャランポランにクビです！などと冗談でも口にされては叶わなかった為に、渋々口を開いた。
教室は再度静まり返り、私と学園長の会話に耳を澄ましている。
そんなに熱心にしたって、特に面白みのある話は聞けないだろう。

｢学園長、お仕事は｣
｢忙しい中時間を割いてやって来ましたよ！生徒や教師の様子を見るのは当たり前でしょう？｣
｢そうですか｣

適当言いやがって。

｢授業も何も、制作しか指示して居ないので放置ですよ。私より生徒を見回ればどうです？私よか面白いでしょう……会話なんざいつだってしていますし……｣

緩慢な私の言い口にふむ、と逡巡し、採用とばかりに教壇から離れていく。一安心である。
存在そのものがうるさい男を遠ざけ、いよいよやる事もなくなったのでぼんやりと壁などを眺める。この辺に壁画擬きでも描いてやったらちったァこの教室のつまらなさも無くなるんじゃなかろうか。
いや自分が授業を受け持つ限りは未来永劫、この空間に瑞々しい空気が満ちることはないな。
あーあ、なんのやる気もわかなくなってきた。

無骨な壁に勝手にやる気をそがれている私とは打って変わって、自由に教室を回る外套男は生徒の作品を見て感嘆の声をもらすなどしている。この男よりマシな人格をしていると思っていたが、存外教師としてならこっちの方が……そんなことはないか。
褒められた生徒が照れくさそうに感謝を述べていた。
まるで授業である。

｢A先生もこっちに来て見てくださいよ、凄いですよォ彼｣

学園長がポムフィオーレ寮生の一人を指してそう言う。記憶が確かであれば、出してくる作品は毎回完成度の高いものだ。
楽しそうにはしゃぐ学園長の目がじっとこちらを見ている。

｢…………わかりましたよ｣

根負けした。これを断ったらまるで非道になる。