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城下町で一番広い公園に設置された草原。なだらかな傾斜もあるので寝転んでのんびり出来るお気に入りの場所。そこのベンチに座っていたAだが。
どうしても、あの男性が頭から離れない。名前も何も知らない彼。それなのに私の心を掴んで離さない。
高揚した胸を苦しそうに抑えているAの頬はあの時のように紅潮していた。
「あれ。もしかしてあの時の子？」
聞き覚えのある声に振り返ると
『ひっ.....！』
今まさにAが恋焦がれていた男性が、Aの後ろに立っていた。
「隣、座っても大丈夫かな？」
『あ....はい。』
隣のスペースは十分に空いていたのに、何故か少しだけ端に寄ってしまった。
彼は、「ありがとう」と言って静かに腰を落ち着ける。そして、
『えっ、』
優しく右手を握られた。
『あ、あの.....？』
「君の名前。
教えて欲しいな」
緊張でうまく彼の言葉を噛み砕けないAはとにかく混乱していた。
彼には、奥さんがいて、それで、私の手を握ってて、それでえっと.....。
「大丈夫？」
『は、はひ！』
「はひって.....！」
そう言って腹を抱えて笑い出した。
『なっ、笑わないでください！』
「ごめんごめん....！あー、笑った笑った。」
笑いすぎたからなのか、少し涙ぐんでいる彼は苦しそうにお腹を叩いていた。
『.........あの。
名前、ですよね。』
「うん。君の名前。
俺はオスマンです。
君は？」
『オスマンさん....。
私は、Aです』
「Aちゃん、ね。
教えてくれてありがと」
その声で私の名を呼ばれた途端、ぽかぽかと胸が暖かくなった。心が、満たされた。とても嬉しかった。とても。
オスマンはもう一つの手で、Aの右手を包み込む。両手で握られたAの右手。
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作者名：悠 | 作成日時：2020年9月13日 5時
