【d!】ハッピーエンドだけが全てじゃない【短編集】 (ページ26)

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たっぷりの愛情を込めて【syp】ページ26

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仕事からの帰り道。真冬の極寒のこの時間帯はとにかく辛い。寒すぎて辛い。なんとか熱を逃がさんとマフラーを口元まで上げ、両手をポッケに突っ込む。両方のポッケにはカイロがぬくぬくと熱を発している。
　

冷たい風が吹き付け、ブルブルと震えているAの目に飛び込んできたのは黒のシャツに灰色のズボン、焦げ茶の革靴という明らかに防寒なんぞされていない服装を身に纏い電柱の下でしゃがんでいる男性だった。寒そうに両手で身体を抱えて震えている。荷物は何も持っていないようだった。

この寒空の下、いくら大人であってもこのまま放置して見捨てるわけにもいかない。Aの中にある良心がチクリと痛んだ。

ただの偽善者でも構わない。一日でも彼の手助けが出来るのならそれでいい。

Aは一歩、また一歩とその人に近付く。

『何かありました？』

声を掛けられた男性は、ゆっくりと面を上げた。

完全に死んだ魚の目をしたその人は小さく口を動かし、「いや、何もないですけど」と言う。

いや、何もないわけないでしょ。

少し呆れたように笑った後、Aは右のポッケからカイロを取り出して彼に手渡す。

『はい。』

「いらないです」

『毒は入ってないよ？ただのカイロ。
女の子の使用済みだよ』

「..........」

『なんだその目。お願いだからやめて』

じとーっと此方を見る彼に居た堪れなくなったAは気まずそうに目を逸らす。足は既に帰路の方を向いているが、多分、いや絶対この人は意地を張っているだけだ。

ここは多少強引でも仕方ない。彼がこの寒空の下で凍え死ぬよりもずっとマシだ。そう結論付けて男性の腕をぐいっと引っ張り上げた。

「ちょ、」

『問答無用！！私の家へ招きます。
あったかいホームが待ってるよ！
さあ、おいで！』

慌ててAの手を引き剥がそうと、もがく男性を完全無視してぐいぐいと家へと引きずっていく。