【ジョーカー・ゲーム】貴方の死に顔はきっと奇麗だから

第１９話 ページ19

大丈夫ですか─────

形式的な気遣いの声が、上の方から降ってくる。
頭を左右に揺らすだけの私を見兼ねてか、目の前のテーブルに、音もなく水が置かれた。

「飲んで下さい。少しはましになりますから」

私は言われたまま水を飲み干して、空になったコップを戻す

…確かに、少しはましになった、と同時に記憶が甦ってくる。
具合が優れないのは、一時間程前まで、投薬訓練をしていたからだった。

「英国に居たというのは偽装でしょう？」

重たい頭を持ち上げてみると、丸テーブルの正面に座った三好が、私を静視していた。

この質問には、薬がまだ残っているか判断する意味もあるのだろう。

「Ｄ機関で訓練を受けている身ならともかく…そうでない貴女がこれまで僕達を欺いていたんですから、大したものですよ」

両手の平を天井に向けて、ほんの少し肩をすくめる。

「な…」

何故、気付いたんです、と言いかけた。どうせはぐらかされると思って、私は言葉を飲み込む。

「僕がAさんの嘘を見抜けたのは、二日前の語学の際に、貴女の英語が完璧な容認発音だったからです」
「教えて下さるんですね」

思いの外掠れた声が出て、私は一つ咳払いした。

「根は親切なんですか？」
「貴女が相手なら、建前でも親切にしますよ」

空のコップに水を注いで差し出し、三好は続ける。

「英国で実際に容認発音をつかうのは極一部の人間だけですから、本当に英国に滞在していたなら、もう少し一般的な発音の筈です」
「あら、私がその極一部の人間だった可能性は？」
「もしそうなら、貴女は米国英語を話したでしょうね。わざわざ容認発音にしたのは、相手に、一聞してイギリス出身だと思わせる為………違いますか？」

ニヤリ、と薄い唇の端が吊り上がった。ぱっちり開かれた目には、挑戦的な光が宿っている。

「さぁ…どうなんでしょうね？」


完全は存在しない
何ものにもとらわれるな
死ぬな、殺すな──────これらは、結城中佐が講義の中で、度々口にする言葉だった。

…事実がどうであれ、私本人が認めない限り、私の全てを追体験しない限り
三好が持つ、私の過去に関する情報の真偽は、決められないのだ。

それを分かった上で、三好は笑みを浮かべている。

「此所に来たのが、Aさんのような人で良かったです。お陰で、退屈しません」
「訓練だけじゃ物足りないんですか？」
「訓練をした僕達を生かしてくれるのが、貴女だというだけですよ」

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