――42 ページ6
.
「……ある、と言っていいのかはわかりませんが……近しい感情なら少しだけ心当たりが」
「元カレですか？」
「たぶん違います」
私は笑いながら言った。
近しい表現は二つ。
父親、もしくは恋人。
でもたぶん、元カレではないだろう。
それでもあの人と私の関係は決して、ビジネスなどではなかったはずだ。
「傍にいたいと思って一緒にいました。一緒に生きていたかった。そういう気持ちには、覚えがあります」
「そう……ちょっと、その人が羨ましいね」
「え？」
「君にそんな気持ちを残していることが」
社長は薄く笑ってコーヒーを飲んだ。
恥ずかしさを感じないのは社長が純粋に羨ましいと思っているように感じたからだ。
たぶん、傍にいたいと感じられる感情そのものに。
「俺と実莉の間にそういう感情は生まれないでしょう。似たような気持ちにはなれるかもしれない。でも、それはビジネスが根本にあって、その上にしか成立しない。……俺たちはあくまでビジネスパートナーであることを、ちゃんと自覚しておかないといけないんです」
社長の言葉からはままならない気持ちが滲み出ているように聞こえた。
社長にもよく分かっているのだろう、両立の難しさが。
私にはわからない、二人の関係性は単純ではないのだ。
社長がこんなに困った顔をするのは珍しい。
それだけ悩ませる相手と思うと、さっきの社長の言葉ではないけれどちょっとその女性が羨ましい気がしないでもない。
「寂しいですね、それは」
ほかに言葉が思いつかなかった。
私がこぼした言葉に社長はまた寂しそうに笑う。
「そうだね。でも仕方がない。俺は仕事と生きるって決めてるからね」
まるで自分に言い聞かせているようでもあった。
理想通りに世界とは進まないものだ。
それは、いつまでたってもあの人が見つからないこととどこか似ている。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 525人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - 続き待ってます❗ (2021年11月9日 5時) (
レス) @page18 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年9月20日 21時
