――53 ページ17
.
社長の親指が唇をなぞる。
社長の目が、私を見つめていた。
大きな瞳。
お酒の所為か熱が灯った瞳。
身体は言うことを聞かなくて、近づいてくる瞳を見つめていた。
周りの音が聞こえなくなる。
すぐそばで、社長の吐息が空気の温度を上げた。
熱に焼かれるようにして目を閉じる。
「っ」
ゆっくりと重なった唇からお酒の匂いがした。
余韻を残す様に離れて行って、薄く開けた視界に社長の顔が映る。
寂しそうな顔。
でも、熱に浮かされたような顔。
「ごめん。……どうしようもなく、君に触れてみたい」
言葉が唇に直接触れる。
頭はすべての言葉を理解していたわけではなかった。
「っ」
わずかに、本当にわずかに。
私は顎を引いた。
社長の口角がほんの少し上がったのが見えた。
次の瞬間唇がふさがれた。
何度も。
何度も。
離れては重なって、重なっては深くなる。
手に持っていたグラスが社長に取り上げられたのが辛うじて分かった。
「んっ、んん」
舌が唇をこじ開けて奥まで入り込む。
鼻にウイスキーの香りが抜けて、頭がくらくらする。
少しずつかけられる社長の体重に合わせるように身体が崩れていく。
背中がソファに抱き留められて、ギシと二人分の体重に音を上げるのが聞こえた。
「悪い、今だけ酒の所為にさせて」
余裕のない呟きに言葉を返す間はなかった。
また唇がふさがれる。
私は藻掻くように手を伸ばして、社長の背中を抱きしめた。
いつもの社長室。
私と社長だけの、秘密の夜。
「秘密を共有するのは仲を深める最高の手だって言うよね」
そうだと言うなら、私は社長と仲を深めることが出来るんだろうか。
ぼんやりした頭で、それもいいかもしれないななんて思う。
人恋しくなる夜がある。
どうしても一人が苦しい夜がある。
愛よりも熱に触れたい夜が、きっと誰にだってある。
脳が痺れていた。
全部、飲み過ぎたお酒のせいだと思うことにした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 525人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
やっち(プロフ) - 続き待ってます❗ (2021年11月9日 5時) (
レス) @page18 id: cc7865b69e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年9月20日 21時
