106.五里霧中 ページ10
どさっ、と座り込んだまま数分が過ぎた。彼の姿が見えなくなってしまったのにも関わらず、ずっとその先を見つめたまま動けなくて。何が起こったのかよく分かっていない頭とは対照的に指先はそっと自分の唇を触っていた。
それに気が付いた瞬間、自分でもわかるくらいカッと暑くなった。おそらく鏡で自分の顔確認すれば赤くなったそれがあることは間違いない。
−お前は土方君のことが好きなんだよ。−
−もう仕事も下りるわ−
銀さんのいった言葉を頭の中で復唱するけれども状況はまだ呑み込めず。とりあえず、整理しようと立ち上がろうとすれば、膝は少し震えていた。
−え…っと…まず私は土方さんのことが好き…？−
確かに彼に好きかと聞かれた時には、何も迷わず好きだといった。多少の好意がなければお見合いなんてしていないし、ましてや今仕事もうまくいっているとは思えない。
だけれどもどうやら銀さんが答えてほしかったのはそういうことではなかったみたいで。ようやく理解できてきた頭の中で、男として土方さんが好きかどうか考えたとき、やっぱり私の答えは先ほどと同じだった。
−そう、分からないのだ、自分の気持ちが。
もともときちんとした恋愛をしてこなかったツケが今回ってきているのかもしれない。彼を男として好きなのか、それともよい友人として好きなのか、そんなこと私には分からない…というかどちらがどう違うのか判断ができないのだ。
それに先ほどの“分からない”という発言には別の意味も込められていた。
銀さんの、質問してくる意図が全く分からなかったのだ。むしろそちらの意味合いのほうが強かった。しかしおそらく銀さんの態度からそれは全く伝わっていないのだろうことが理解できる。
−私の気持ちが…銀さんに分かるの…？−
そこまで整理できると今度は少しむかむかとした感情がわいてきた。最後に逃げるように去っていった彼が残した言葉も気に食わない。「もう仕事も下りるわ。」だなんて。
確かにもう借金はとっくの昔に払い終えているのだが、私の仕事はこれからまだまだ続くし、何なら今からが大変なところだというのに。
無責任にもほどがある。それなのに…
こんな怒りも先ほどのキスを思い出すとすぐに忘れてしまいそうになる。強引で、でも優しいキス。私はこんなもの知らない、知るはずもなかった。
−銀さんは私のことが好きなの…？それともただ土方さんに対抗心を燃やしているだけ…？−
彼の気持ちが分からない。
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narumi(プロフ) - いつと楽しく読ませてもらっています(*^^*)とても続きが気になります♪応援しています！ (2021年2月15日 20時) (
レス) id: 5cd2b1b9c5 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - 続き気になる！楽しみにしてます！ (2021年2月3日 15時) (レス) id: 9be2d294c2 (このIDを非表示/違反報告)
気空(プロフ) - とても素敵なお話でシリーズ一気読みしてしまいました……！ 夢主と銀さんの絶妙な距離感の変化がたまらんです。こういう夢主ちゃんあまり見かけないので巡り会えて嬉しい……陰ながら応援しております！ (2021年2月3日 7時) (レス) id: 413d1f6892 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：咲 | 作成日時：2021年2月1日 20時
