105.風紀紊乱 ページ9
「答えろよ。」
小さくつぶやいた俺に橘は、「付き合ってない…。」と消え入りそうな声で答えた。そして「土方さんのことは…分かんない…。」と続けた。
ぐいと引き寄せた体はポスンと俺の中におさまっていて寒いのか怖いのか少し震えている。それに気が付いた俺は、「…わり…。」と少し焦って離れた。
確かにこんな夜に、しかも前触れもなく急に男に抱き疲れたら誰だって怖いよな、と先ほどまでは冷静に働かなかった頭がフル回転している。訴えられたらどうしよう、とも思った。
「銀…さん…何か、あったの?」
怪訝そうな顔をした橘。どうやら俺の今の行動は酔っているから、もしくは何かあったことが原因だと考えているみたいで。まったくもって俺が自分に好意を寄せているなんて思っていないのだろう。そしてその事実が俺をまた傷つける。
「…何も。」
「嘘、なんか変。いくら酔ってるっていってもこんなことしないでしょ。」
「ねぇ。」と早足で歩き出した俺に置いて行かれないように橘は少し小走りで隣に並んだ。女にしては少し高い身長にすらりと長い手足。先ほどその体が俺のすぐそばにあったのかと思うとまた抱きしめたくなる。
その衝動をぐっと抑えて俺は唇をかんだ。これ以上橘のそばにいたら俺は自分が何をしでかすか分からない。そんなことなら早く気持ちを伝えてしまえばいいなんて無責任なことをいう奴がいたのなら、俺と同じ状況に立ってそんなことが言えるのか、確かめてほしい。
俺だって100パーセント俺に気がないと分かっている女に簡単に告白できるほど勇気のあるやつじゃない。
「ねぇ…銀さん。」
「うるせぇな。黙ってろよ。」
そう、そんな簡単に告白できる奴じゃなかったはずなのだ、俺は。少なくとも恋には多少臆病さを持ち合わせている人間だったはずなのに。
再び引き寄せた腕と体はもうすっかり冷えていて、もちろん強引に重ねた唇もそうだった。少し唇を離して閉じていた目を開けると、目の前の彼女は対照的に目を見開いていて。
何か言おうとした彼女に何も言わせるものかとまた唇を重ねると、今度はどん、と胸を叩かれる。それでも離さない俺に橘は「んっ、」と声を漏らした。
「わかんないなんて嘘だろ?お前は、土方君のこと好きなんだよ。だったら俺に少しでも気を見せるな。」
「…。」
何も答えなかった橘に俺は背を向けて「もう仕事も下りるわ。」と一言だけ告げるとその場から逃げるように立ち去った。
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narumi(プロフ) - いつと楽しく読ませてもらっています(*^^*)とても続きが気になります♪応援しています! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 5cd2b1b9c5 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - 続き気になる!楽しみにしてます! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 9be2d294c2 (このIDを非表示/違反報告)
気空(プロフ) - とても素敵なお話でシリーズ一気読みしてしまいました……! 夢主と銀さんの絶妙な距離感の変化がたまらんです。こういう夢主ちゃんあまり見かけないので巡り会えて嬉しい……陰ながら応援しております! (2021年2月3日 7時) (レス) id: 413d1f6892 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲 | 作成日時:2021年2月1日 20時