98.魑魅魍魎 ページ2
「さて、お客らも帰ったことだし一眠りするかね。A、悪いけど井戸から水汲んできとくれ。」
「分かりました。」
こくんと頷いて受付の奥に入り、小さな作業場を通り過ぎる。
ここは私のパーソナルスペースだった、アルバイトしている時の。
私は14になる頃、遊郭でバイトをしていた。借金をしているとか、親に売られたとかそんなんじゃなかったから、『バイトさせてください。』と私が来た時は少し驚いた顔をされた。
年も年だし、今更遊女に、禿に、というのはどちらにしても遅すぎた。ましてやA自身遊女になることを希望していたわけではなかった。
『あんたなんでここさで働きたいの?』
『…バイト掛け持ちしてるんです。夜働けるのってこういうお店しかないから…。』
そう言えば女将さんは小さくため息をついたけれど、『分かったよ。ただし、受付兼雑用係だからね。』と私を迎え入れた。
そうして一年が経とうとしていた頃、先程の男達が現れたのである。
キィ、と音を立てて裏口の木の戸を開けると、真っ直ぐ行ったところに井戸がある。
おそらく人数分持ってきて欲しいのだろうから、何度か往復する必要があるだろう。
私は桶を2つ棒を使って肩で担ぐと、ゆっくり井戸に向かう。初めはバランスを取るのが難しかったが今ではもうお手の物だ。
そういえば随分と昨日の客は態度が悪かったな、と思い出す。年に何回かああいう人達が来るのだが、私の対処方法はどうやら問題があるらしく、いつも女将さんに怒られる。
昨日は割と顔の整った綺麗な黒髪の人が先に謝ってくれたから大事になることはなかったが、何度か殴られたことはある。しかも顔を。
対して大きな怪我にはなったことはなかったから別に良かったけれど、私以上に遊女達は悲しい顔をする。
それを見たくなくて最近は大人しくしていたのに。
はぁ、とため息をついたと同時に『おえっ。』と誰かがえづいている声が聞こえた。井戸の方に目を向けるとそこには銀髪の男が井戸のすぐそばの木にもたれかかっている。
勘弁してくれ、と私は軽く顔を顰めながら井戸に近づく。しかし男は私に気がついていないのか盛大にオロオロオロ…と吐き出してしまった。
ー……ジーザス…ー
パシャンと音を立てて桶を井戸に入れ、水を慣れた手つきでくむと、私は急いで裏口へ足をすすめた。
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narumi(プロフ) - いつと楽しく読ませてもらっています(*^^*)とても続きが気になります♪応援しています! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 5cd2b1b9c5 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - 続き気になる!楽しみにしてます! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 9be2d294c2 (このIDを非表示/違反報告)
気空(プロフ) - とても素敵なお話でシリーズ一気読みしてしまいました……! 夢主と銀さんの絶妙な距離感の変化がたまらんです。こういう夢主ちゃんあまり見かけないので巡り会えて嬉しい……陰ながら応援しております! (2021年2月3日 7時) (レス) id: 413d1f6892 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲 | 作成日時:2021年2月1日 20時